ぐるぐる通信2-1
ネイティブ・カナディアン ビル長老の話  

      
                       札幌 みかみめぐる

■ビルさんとの出会い  アイヌ民族の文化運動をあれこれ手伝っていた頃、私はネイティブ・カナディアンのステイラス族長老ビル・ウイリアムズさんと出会った。同じような鮭の伝統文化を持つ先住民ということでビルさんは、九十一年と九十三年にアイヌ民族の鮭の儀式に招かれ北海道にやってきた。
 ビルさんはカナダ西海岸のバンクーバーから内陸百五十キロのチェハリス村で暮らしている。村はフレイジャー川の支流ハリソン川のそばにあり、村の人々は一年中その川から様々な鮭の恵みを得て暮らしている。
 二十年前、ビルさんたちステイラス族の人達は、川を区画して鮭の資源調査(匹数算出)を行ない、それと共に自分達のふ化場を造り鮭のふ化事業をはじめた。そしてそれ以後、増えた分は自分達のふ化事業の成果であると主張し、先住民の鮭捕獲権利獲得を実現した。ブリティッシュ・コロンビア州の一九七部族のうち川のそばで暮らしている部族は、自分達の食料分として鮭を無制限に捕獲できるようになり、九十一年からは紅鮭に関して売るための捕獲権利も獲得した。これは先住民としての権利回復であると同時に、村に働く場ができ生活の基盤が得られるならば、わざわざ都会に出ていく必要がなくなるという雇用確保を目的にした運動でもあった。ビルさんはこのふ化場の場長を十四年間つとめた。
■真の名前
 ビルさんは初来日から現在に到るまで、服役中の同胞が刑務所内で差別をうけないように監視する仕事につき、服役中に技術を身に付け社会復帰しやすいようなプログラムの指導もしている。
 現在のカナダでもネイティブに対する差別は存在し、都会に出た若者達は麻薬やアルコールに依存し犯罪に手を染めることも少なくない。こうした服役中の同胞のためにビルさんは毎週スウェット・ロッジもおこなっている。
 スウェット・ロッジは肉体と精神を浄化する儀式で、強烈なサウナの一種である。木の枝などでドーム型の骨組みを作り、外側を毛皮や毛布で覆い、真っ赤に熱した石に水をかけて蒸気をつくりだす。スウェット・ロッジは「人間が生まれ出るところである子宮、または生涯を通じて人間を育む大地の母なる子宮」と考えられていて、その中で霊的感覚を体験したり、自分が死んで生まれかわるという感覚=臨死体験をしたり、そこにいる同胞に強烈な親和力を感じたりするのだという。重要な決定を下さなくてはならない時、自分を見失いそうになった時、自分と自分を取りまく世界との調和を図りたい時など、事あるごとにスウェット・ロッジに入るのが彼ら先住民族の習慣だ。
 ビルさんがこのスウェット・ロッジを毎週末刑務所内で行なうことは、服役中の同胞達にとって精神的な支えとなり、先住民族としての誇りの回復につながっているという。
 初来日の際、打ち解けて話せるようになった時ビルさんはこんな話をしてくれた。「私は若い頃、山の中で木を切り出す仕事をしていた。その頃その山にいた他の部族の大長老が、私にレェトクァ・アムキン(鷲と鮭が調和しながら共に生きる)という名前と立派な羽飾りを授けてくれた。この名前が私の真の名前です。その日以来私はこの名前に恥じないように、この名前と共に生きてきたのです。」。
 ステイラス族の長老として誇り高く生きているビルさんだが、若い時のこの大きな出来事が彼をネイティブな生き方へと導いた。大長老が授けてくれたその名前が彼の人生を暗示し、また彼の人生を育んできたのだ。
 ビルさんはこの話をしてくれた後で、そっと私の手に一枚の鳥の羽根をのせ、「どんなに苦しく困難な目にあった時でも、この鷲の羽根がお前を守り、助けてくれるから。」と言った。 その2 へつづく。(雑誌『気の森』18号より)

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