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終末時計

 
 世界の終わりがまず間違いなくやってくるなら、そのとき世界中の人々はどうするんだ
ろうと考えてしまいます。案外冷静なのか、それとも全世界的にパニックになってしまう
のか。もしかするとその両方なのかもしれません。
 「渚にて」という小説がありますね。
 猛烈に絶望的な話で、ストーリーをご存じの方もいるかもしれません。
 終末戦争が起きてしまったのです。
 終末戦争というか、核戦争ですね。
 難を逃れたアメリカ海軍の原子力潜水艦は、オーストラリアに寄港します。すでに母国
は壊滅、北半球は核の炎に焼き尽くされ、直接的被害のなかったオーストラリアにも、死
の灰がやがて到達し、世界は緩慢な死を迎えます。これは逃れようのない運命で、物語は
淡々と、しかし変わらぬ日常を過ごしながら、迫り来る破滅と対峙する市井の人々を描き
ます。
 なんとまあ絶望的な物語でしょう。
 On the beachという原題からは、なんとなくサーファーズパラダイス的な響きがありま
すが、そんな「ビッグウェンズデイ」な物語ではありません。
 潜水艦はある日、母国から謎のモールス信号が届くのを確認します。
 アメリカは滅びたのではなかったのか?
 議論の末、艦長は母国を目指すことを決意します。
 が、航海の果てに乗組員たちが見たものは?
 もしかするとこれから先「渚にて」を読んだりする人がいるかもしれないので、ネタバ
レ禁止。

 アフターワールド物という小説や映画などのジャンルがありますが、それはいってみれ
ば、現在という時代が飽和状態に達していて、夜逃げ的感情が吐露したし結果の物語なの
ではないかなと思います。
 滅んでいく世界の淡々とした物語は、案外ないものです。
「ディープインパクト」も、もう少し詰めればきっとすばらしく絶望的で希望に満ちた話
になったのでしょうけど、いまいち。という気がします。
 隕石だとか突発的疫病だとか、冷戦構造下においては全面核戦争の「夢」が、いわばそ
うした「無責任」な物語を許容したのではないかなと思うわけですが、現在は下火になっ
ているような気がします。
 みんな気づいてしまったのでしょう。

 世界は終わらない。

 少なくとも、100年、200年程度のスパンで考えた場合、結局のところ人類社会は終わ
らない。

 かつて、全面核戦争の恐怖が世界を均衡的平和に導いていた頃は、「第三次世界大戦のあ
と、第四次世界大戦で使われる武器は、石と槍になる」などと言われていました。
 確かに全面核戦争が起きてしまえば、世界人口は激減、放射能の影響以外に、都市や工
業地帯があらかた壊滅してしまうわけであるから、複雑に発達した現代社会はその秩序と
システムを維持することができず、結局文明は崩壊し、原始農耕社会まで後退してしまう
という予測だったわけです。
 確かに人類は滅びないかもしれません。
 が、文明は崩壊してしまう。
 直径10キロ程度の大きさの隕石が落下しただけでも、同じような状況になってしまう
でしょう。
 実のところ、全面核戦争による「核の冬」を提言したウォルター・アルバレスやカール・
セイガンといった学者たちは、生物学者ではなくどっちかというと物理系の人々で、隕石
衝突による「衝突の冬」と「核の冬」は、現象としては同じです。
 世界の主要都市や工業地帯、軍事基地すべてに核攻撃が実施された場合、炎上した都市
の煙や塵は大気中に充満し、太陽光線を遮断、地表は零下になってしまいます。「地球炎上」
の果ての「地球凍結」です。が、その後やってくる温室効果や、放射能による影響は計り
知れず、人類文明の崩壊というよりは、地球的生態系の壊滅につながってしまうかもしれ
ません。放射能の影響は、核の炎の破壊力以上に深刻です。
 隕石衝突による影響は、放射能こそ出ないものの、その一発の威力はすさまじく、直径
10キロ程度の、岩石が主体の隕石が地球に落下した場合、これはおそろしいエネルギーの
解放になってしまいます。
 軌道上から落下する物体の運動速度は、秒速八キロ程度。音速は秒速0.3キロメートル
程度ですから、20倍以上の速度を持っているわけです。エネルギーは速度の二乗に比例し
ますから、音速程度の拳銃弾が壁にめり込むのとは違います。もちろん、質量もまたエネ
ルギーの開放には密接に関係しますから、仮に太平洋上に落下した隕石は、一気に減速さ
れる際の速度はすべて熱に変換され、一瞬で隕石も海底岩盤も蒸発します。津波は数百メ
ートルから数千メートルに達し、その速度は音速を超えます。その津波の破壊力もすさま
じいのですが、衝突によって生まれる熱エネルギーは海を越え、大陸を焼き尽くしてしま
います。衝突でできるクレーターの大きさは200キロ以上。岩盤はめくりあがり、飛散し
た破片は大気圏を突き抜けて、またふたたび地球の引力で落下してきます。
 巻き上げられた粉塵は瞬く間に地球を覆い尽くし、たった一個の隕石は、いくつもの種
を絶滅に追い込み、仮に人類文明が存在する時代にそれが発生したら、文明は崩壊してし
まうかもしれません。
 しかし、わたしは気になるわけです。
 地球の表面の7割は海かもしれません。が、隕石が地表に落下したらどうなるんでしょ
うね。津波は起きませんが、まあすさまじいことになってしまうのでしょうね。

 冷戦時代は、隕石の落下をたがいに敵の核攻撃と誤認して、それが全面核戦争に発展す
るのではないかという懸念があったそうです。
 直径数十メートル程度の隕石が落下しただけで、水爆の爆発に匹敵するエネルギーらし
いですから注意が必要です。

 ちなみに何で隕石の話を延々としているかというと、NHKスペシャルを見てしまった
からですよ。「地球大進化」を。
 地殻津波だとか全海洋蒸発だとか、岩石蒸気だとか。
 これはもう悪夢以外の何ものでもありませんねェ。
 描かれたのは直径400キロの隕石、というか小惑星が衝突した場合、という想定ですが、
直径400キロもの隕石が衝突したら、恐竜絶滅どころではなく、わずか1日で地上は「岩
石蒸気」に焼き尽くされ、生物は100パーセント近くが死滅するに違いないのです。
 おそろしい映像でした。
 そうした400キロ以上もの隕石の衝突が、地球の歴史上、少なくとも8回はあったとい
うのだから驚きです。
 世界は破滅します。
 逃れられないですね。
 10キロ程度の隕石衝突でも計り知れない破壊力を秘めているというのに、400キロです
よ。
 10キロの隕石であれば、まだ生き残る生物は多いでしょう。爆風や津浪が大陸を襲った
ところで、全世界を破滅に追い込むほどではないのです。
 が、400キロになると話が違います。
 岩石が蒸発するのです。
 そして、地殻が津波と化して大陸を襲うのです。
 おそろしい。
 蒸発した岩石は、4000度もの熱を持ち、全地球を覆い尽くします。
 海水は一滴のこらず蒸発し、「海」は地球上から姿を消してしまいます。

 破滅ですね。

 こんな劇的な破滅をわたしは望まないでしょう。
 なぜなら、私という世界が終末を迎えればいいだけだからです。

 Kさん電話ありがとう。


(2004-04-17)



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