シビリゼーションに意味を感じなくなったら、巷の本屋からは何も読みとることができ
なくなるに違いない。だからこそ、切符を一枚買えばいい。
リスターは地下鉄の階段を二段とばしに駆け上がり、そして空が腹立たしいくらいに晴
れ渡っていることに気づく。
「電話を忘れていないかい?」
愛などいらぬ。リスターはポケットティッシュ配りの女の子に「いい天気ですね。しか
し未来は暗いって知ってましたか?」と呼びかけると、その場で鼻をかんだ。すっきりし
たよ、ハニー。
果物屋には清見オレンジと桃太郎トマトとデラウェアが並んでいた。
「喉が渇いているのかね」
店主はひげをなでながらリスターに歩み寄った。
「それほどでもない」
「パンディウムが君を待ってる。この先『落石注意』だよ」
「I know that,I know!」
リスターは腰に手を当てると、そのままSIG P226拳銃を抜き、店主に向けて一発お見
舞いした。
「リスター……噂通りの男のようだな……。トマトには気をつけろ」
店主の名前は知らない。
リスターは空薬莢を回収すると、それをポケットに入れた。まだ空薬莢は熱かった。や
けどするかと思ったよ。
ヤシマはドゥカッティのエンジンがいつまでたっても吹け上がらないことに苛立ってい
た。大学前のランプから高速に乗るつもりなのに、これではせっかく均一区間400円を支
払う意味がないではないか。
仕方がないのでヤシマは煙草に火を点けた。
「煙草、喫い過ぎだよ」
ピッピ、ピッピか?
ヤシマは懐かしい声を聞いた気がした。
しかし、ピッピはいまごろ、東日本電力株式会社の福島浜通原子力発電所の運転員をや
っているはずだ。たいしたもんだ。なぜピッピがそのような職業に就いたのかはよくわか
らない。
ピッピ……樋口朋子とは大学で一緒だった。彼女は北関東の小都市からやってきた。
(いやになるくらいきれいな田園が広がる街だったの。そんなのどかな場所はわたしの世
界じゃなかった。だから出てきたの)
ピッピはやたらと背の高い女の子で、ヴァニラコークが好きだと言っていた。変わって
いる。
ドゥカッティのエンジンはまだ冷え冷えだ。4月にバイクに乗ろうとするのが愚かなの
か?
ヤシマは煙草を携帯灰皿につっこんで消した。
ディスコネクトには時間がかかる。
そんなことはわかっている。
どうしようもないじゃないか、しかし制御棒がなんの意味があるのか、ピッピから聞い
たかい?
彼女はもうすっかり世捨て人のようだよ。
密着できない連結器は、特急電車の走り去るトンネルの影からわたし自身の夢を追いか
けて、カタクリ畑があると聞いていたから、そんなくたびれる山道を歩いたのだ。
ところが、やはりすべてが嘘だったと気づいたとき、彼は臨終の床についてずっと考え
ていた。
正直者なんですよ。結局。彼も、わたしも、ね。
誰がそんなことを言ったんだ!
リスターというのは俺の名じゃない。
リスターなんて人間はこの世に元々いないんだ。
だって、あいつは元腕利きスパイだからな。
そんなわけで、教示した共鳴現象はビールの車から飛び出したのです。
(2004-04-22)