●ライブレポート TRUSH BOX LIVE ACTIVITY 2004
午後六時から始まるというのに、五時半の時点で狭いライブスペースはもうびっしり。狭
いからだと思う。なんて考えながら、まわりの連中が全員TRUSH BOXのファンかと思
うととても意外。自分のまわりでTRUSH BOXを熱心に聴いてる人間などほとんど居な
いからだ。一緒に出かけたATSが笑っていた。客層は90%以上が男。残り10%が何かと
いうと、男にくっついてきた、または無理矢理連れてこられたと思われるカップルだ。な
んとも気の毒。
TRUSH BOXのライヴを見るのは二回目。
とにかくTRUSH BOXはライヴが好きらしい。アルバムを作るよりもさんざんライヴ
を繰り返す。よくやっていけるものだと感心するけれど、まあ彼らのライヴはほかのアー
ティストと比べるとちょっと変だ。
今回のライヴは午後6時より二分ほど遅れて始まった。僕は職場の電波時計で腕時計の
時刻を合わせてきたから間違いない。これも相変わらず。以前はライヴ開始予定時刻より
5分早くはじまってしまったし。
いきなり耳を打つのは、「Schizophrenia」。なんとも彼ららしいと思うのは、つい2月
にリリースしたアルバムからではなく、その一つ前のアルバム「そんなものなくても私は
眠れます」のオープニングナンバーを無表情にやってしまうこと。ノリも何もあったもの
ではない。いきなりはじまるダークきわまりないTRUSH BOXの音楽。目論のギターが
吠えていた。ヴォーカルの吐魔徒は喉の調子が悪いのか、高音部が少しだけ苦しそう。ネ
ットの公式サイトでは、昨年末に引いた風邪が大層重かったと書いてあったが、それがい
ままで治っていないわけではないはず。ウォームアップ不足か?
そのまま目論のギターは冴え渡ったまま、二曲目へ。
ここでオーディエンスは立ち上がりかけるが、ドラムの孤眼が、
「どうぞおかけください!」
と叫ぶ。会場は爆笑。そのまま二曲目は、「I can't see shit!」。ここで新曲だ。
アルバム「約束はしてない」での収録は半年かかったらしいが、ドラムがとにかくカッ
コイイ。叩く孤眼はすでに汗が散っている。体力はつづくのか? 吐魔徒も火がついたの
か、ほとんど音程を無視したシャウトがはじまった。意味不明の空間がようやく扉を開い
て我々を引き込もうとする。
なだれ込むようにして「9th killer」へ。「いいのか?」と思わせる危険きわまりない歌
詞なのだけれど、肝心の部分は英語でぼかしてあるし、危険な部分はギターの音でかき消
されて歌詞が聞こえない。考えたものだ、TRUSH BOX。吐魔徒がステージの上をうろう
ろし始めるが、これは彼独特。引きつったような笑みをオーディエンスに投げつけ、「9th
killer」が終わる。
ここで1回目のMC。
「売れる売れないは関係ないんですけど……」
吐魔徒が突然の切り口上。
確かに売れているアーティストではないが、会場を一応は埋め尽くすだけの集客力は、
TRUSH BOXのスタイルから考えればたいしたものだと思う。
「今日はお忙しい中、お集まりいただきましてまことにありがとうございます。私のすば
らしい仲間、みなさんご存じかと存じますが、紹介させていただきます」
異常なほどの丁寧語。会場はすでに含み笑いでいっぱいだ。吐魔徒の手によって紹介さ
れるメンバー。おなじみの面々だが、今日はサポートメンバーがいる。このライヴ限定な
のか、吐魔徒もさらりとした紹介にとどまる。
「このひとのキーボードはすばらしいですよ。助かりました。みなさん拍手!」
吐魔徒が紹介するキーボーディストは、サングラスをかけたまま、にこりともしない。
さすがTRUSH BOXである。観客からは一応の拍手。僕もATSも拍手。
短いMCが終わって、吐魔徒のヴォイスパーカッション。「犬のケンカ」だ!
エンジンがかかってきた、そう思わせるのはオーディエンス。徐々に盛り上がる。スロ
ースターター気味なのはTRUSH BOX本人も、それを好んで聴いている僕らも同じ。す
っかりアルバムでなじんだ「犬のケンカ」も、実際に見ると相当におかしい曲だ。
それにしても、TRUSH BOX、以前より確実に演奏力が上がっているのはたいしたもの。
ライヴ慣れしたのだろう。アルバムと聞き比べても遜色がない。ライヴ向けアレンジが上
手なのか、演奏に対する不安はもうほとんどなくなった。
つづいて「約束はしてない」「ホームライナー」とおとなしめの、しかし強烈な歌詞を秘
めた二曲つづき、MC。しゃべり出したのはドラムの孤眼。TRUSH BOX名物が、てんで
ばらばらなMCだ。以前のライヴでは、吐魔徒は一言もしゃべらず、孤眼とベースの邪牙
が一方的にしゃべるという展開に持ち込まれ、TRUSH BOX初体験だった僕はとまどった
ものだ。
そして、「Coke」。ファーストアルバムの名曲が、ほとんどアレンジなしで演奏される。
つづいては「Press Your Enter Key」。吐魔徒はフライドポテトを右手に持ち、それを食べ
ながらのパフォーマンス。この時点で会場はもう興奮のるつぼだ。知っている人は知って
いる。そんな爆笑。フライドポテトには僕も笑った。聴くところ、これがTRUSH BOX
ライヴの名物らしい。実際にフライドポテトを会場に持ち込んで食べている観客もいるの
だから。どうやって持ち込んだんだ?
MC。
「そろそろだるいですね。しかし、もうちょっとお待ちください」
孤眼が叫ぶ。
そろそろライヴも終わりに近づいている。
スローナンバーの「Beyond the trash and our engines」が演奏されると、中だるみ気
分など無縁に。それにしてもよく作り込まれている。単純なのに、これはコード進行の妙
技だろうか。
「My guys」「west points」と「約束はしてない」からのナンバーがつづく。いよいよ
ライヴも終演だ。が、次の瞬間にオーディエンスは戸惑うことになる。
例のサポートキーボーディストが奏で始めた曲に、全員覚えがないのである。いや、覚
えはあるのだけれど、観客全員が「まさか?」。僕とATSも顔を見合わせる。
TRUSH BOXが演奏し始めたのは、「消える星を数えました」。なんとCONIFERの名
曲だったのだ。これは全員が驚いた。ボーカルは吐魔徒。もちろんTRUSH BOXには女
性ボーカルがいないからコーラスパートはアレンジされているが、違和感が全くなかった。
演奏が終わっても、会場はしばらく戸惑ったままだった。みんな曲は知っている。けれ
ど、それがまさかTRUSH BOXのライヴで聴かされるとは思っていなかったのだ。恐る
べし、TRUSH BOX。そしてMC。
「みなさん、CONIFERというバンドを知っていますか?」
知っている。僕はCONIFERのライヴも三回ほど見たことがある。そして、ずっと気に
なっていた違和感が、吐魔徒のMCで融解することになる。そう、サポートのキーボーデ
ィストの謎。
「CONIFERの森澤淳君です。どうしてもやらせろと脅されたので、せっかくだから来て
もらいました」
これには観客全員が絶句。そして、次には大きな拍手。サポートで来ていたのは、ほか
でもないCONIFERの森澤淳だったのだ。どうりで「消える星を数えました」のコーラス
に違和感がなかったわけだ。本人がコーラスを当てているのだから。
そうしてライヴは奇妙な熱気を抱えたままで終わった。
アンコールは、「見晴らしのいいところで会おう」。
一曲のみで終わったが、最後はメンバー全員が「ありがとう」「さよーなら」と挨拶。無
愛想なTRUSH BOXにしてはめずらしい。いつも愛想のいいCONIFERライヴを意識し
てか? 森澤淳の手前か?
そんなわけで、午後九時少し前。
僕はATSとともに会場をあとにした。
僕は「Coke」を、ATSは「消える星を数えました」を口ずさみながら。
(2004-05-02)