ジャックはコーラが大好きです。
インターステート15号を、彼は自慢のスープラで走りながら、実のところ喉が乾いて
いました。コーラ好きなのですが、残念ながらしばらくレストエリアはありません。
そこでふと思いつきました。
ジャックはいったんインターステートから降り、小さな街で車を止めました。
意識を加速させることにしたのです。
彼は意識だけで旅をすることができる「覚醒者」の一人です。覚醒者は覚醒者であり、
けっして隔世車ではないのです。意味が通じません。
ジャックはみんなに自分が覚醒者であることを黙っていました。今でも黙っています。
ばれたら大変です! みんなに言われてしまいます!
「イェー、Yo! Yo! お前は覚醒者さ。だまっていたって知っていたよ。お前は覚醒者
さ。知っていたさ、Baby。何でも見えるんだってな、ヘイ、覚醒者!」
そんな歌を歌われてしまいます。
現におなじ覚醒者のブリジッドは、結局住み慣れたフォートベニングの街を離れなけれ
ばならなかったからです。それは避けなければなりません。こう見えてもジャックはジェ
ネラル・エレクトリックの社員なのです。
そう言えば。
ジャックは彼の友人を思い出していました。
ジェフのことです。
彼はペンシルベニアで冷蔵庫を作っていました。ジェネラル・エレクトリックは冷蔵庫も
作っているのです。ジェフはいい奴でした。
しかしある日突然、異動を命じられたのです。
新しい部署は、戦闘機に搭載されるバルカン砲、M61シリーズを製作する部署でした。
ジェフは心底驚き、その日、愛車のフォード・フォーカスを側溝に落っことしてしまいま
した。レッカー屋のダニーは赤毛のアイルランド系いかれ野郎で、大爆笑されました。ペ
ンシルベニアはのどかでいいところでした。ジェフはネヴァダへ移り住み、バルカン砲を
つくることにしたのです。
大変でした。
ジャックはアメリカンスピリットに火を点けました。そういう名前の煙草なのですよ。
ジャックはカリフォルニアのオンタリオで生まれました。オンタリオ空港に近い、なん
もない場所です。Kマートやウォルマート、ターゲットといったスーパーマーケットでぶ
らぶらするのが好きな男でした。だからコーラも好きなのです。
そんな時、すべてが見えたのです。
ドイツの片田舎でBMWを走らせるケーニッヒの姿を!
むう。
奴は強い。
覚醒者であるジャックにはわかりました。
マーモアクーヘンをカフェで食べようと思ったのに、今日は休暇中だから、おとなしく
ビールを飲めばいいのですよ。
ジャックはドイツの片田舎の風景をすべて見てしまったのです。
知ってますか?
中国では、餃子ににんにくを入れないのですよ?
それは楊朝明が言っていたのです。ああ、彼も実は覚醒者だったのですよ。
ジャックはアメリカンスピリットの重くこゆい煙を深々と吸い込むと、「ここはネヴァ
ダだからいいのさ」とひとりごち、ニヤリと笑いました。
州境を越えてカリフォルニアへ戻れば、こんなあけっぴろげに煙草を喫うこともできな
くなるからです。
わかっていました。
そんなとき、評議会の連中がジャックを誘いましたよ。評議会は「カウンシル」とただ
それで呼ばれ、そこに「正直者のケネス」という男がいたのです。
長身の男でした。
正直者のケネスは実は、真摯ではありましたが大嘘つきでした。
しかし真摯だったので、
「私は大嘘つきなんだよ、ジャック。だからみな私のことを『正直者』と呼ぶのだよ」
なんと。
そこには深いパラドックスの闇が見えました。
飛んでいる矢は止まっているのですよ。
そろそろ出発しなければ、スープラのエンジンが冷め切ってしまいます。
というわけで、このへんで。
(2004-05-14)