すべてが青くなる。
つまるところ、すべてが青く沈んでいる。たとえば水槽の底。
アクアテラリウムの底に私自身が沈んだとして、見える草木はみな冬枯れだった。何も
ない。死んでいるわけではないけれど、静かな冬。まだ雪のない、冬。
着低したその場所で、私は静かに次の列車が来るのを待つ。来るはずのない列車を待つ。
なぜならばここはプラットホームではないからだ。私を無視して、あの列車は次の駅まで
すっ飛んで行く。とどめることもできず、私はただ線路を見上げて、その中によぎる幾百
もの世界を眺める。
世界はひとつではない。と思う。
その実態を誰が正確につかもう。つかめるはずがない。私自身のことは私以外に分から
ない。もちろん、私以外の世界を、私は理解することができない。総じて自閉症的な、ひ
どく閉じた空間の羅列。それらすべてが並んだとき、ひとつの社会として機能する。
午後四時、に少し前。
プラットホームで快速電車が轟音を立ててすっ飛んで行くのを私は黙って眺めていた。
転換クロスシートのシートにもたれた乗客のひとりが、私の目に止まった。彼はこちらを
向いていたわけではなく、私の視線がたまたま彼の表情をとらえてしまっただけの話。数
分の一秒、彼と私は同じ世界を見た。いや、私が彼の世界の端に、確かに存在していたと
いうだけ。同じ世界を共有したわけではなかった。
ポケットの中に一枚の切符。尖った角が右手の中指に触れて、十一月の風はひたすら冷
たく、まして今日は風が強かった。
私はプラットホームのベンチに腰掛けて、次の電車を待った。今しがた発車していった
電車には乗らなかった。意味はなかった。乗換えが面倒だと、ただそんな風に感じただけ。
乗り換えに要する時間より、ここでこうして次の電車を待つ時間の方がはるかに長かった
けれど、気にならなかった。もうどうでもよかった。
レールが軋む。
次の電車。
世界を共有しているはずのない、数十、数百の同じ世界。
私はひどく憂鬱になる。
(2004-11-26)