○「Absolute Wing」のこと○
趣味まる出しです。
元ネタは、ご存じか、森博嗣「スカイ・クロラ」シリーズ。
興味のある方は、まず、
スカイ・クロラ
を見て欲しいのです。そして、読んで欲しいのです。装丁が美しい本です。これだけで
も「買い」です。
著しく読み手を選ぶ内容なのは間違いなのだけれど、飛行機がある程度好きで、無国籍
で時代背景が一切不明な雰囲気がお好きな方にはおすすめできます。
ようするに、拙作「Absolute Wing」は、「スカイ・クロラ」シリーズの「二次創作」と
言っても差し支えないわけです。かねてから私、「二次創作は創作じゃない」と思ってきま
したが、自分でやってしまいました。ただ、「ほぼ原形をとどめていないから許して」とい
う気分もあるわけで、それを言ってしまうと、「夏の扉」もまた、芦名野ひとし「ヨコハマ
買い出し紀行」の二次創作と言われても仕方がないわけですが。
「Absolute Wing」が元ネタにした小説は当然もう一つあって、それは、
神林長平 「戦闘妖精・雪風」
こちらは、80年代から90年代にかけて開発・運用された戦闘機がお好きな方には無条件
におすすめできる(?)小説。鳴海章の一連の航空サスペンスシリーズよりも、戦闘機に対す
る描写には「フェチ」的なものすら感じます。
「戦闘妖精・雪風」は、ちょうど航空自衛隊の要撃戦闘機F-15Jの配備が始まった頃に
書かれたもので、作者自身もモデルとなった戦闘機がF-15(初板文庫解説には、F-14とあ
るものの、「双発の大推力エンジン」「シンプルなクリップド・デルタの主翼」「双垂直尾翼」
とくれば、もうこれはF-15しかないわけで)と認めているようです。フライトシミュレー
ションのように、離陸シーケンスに延々2ページも手順を書きつづるという、これはもう戦
闘機に興味もない人間が読んだら、本を放り出すのではないかと思われるような小説です
(戦闘機のエンジンをかける際に、ジェット・フュエル・スタータなどという補助パワーユ
ニットを使用するなんて知らなかった)。
本読みの間には、「スカイ・クロラ」と「戦闘妖精・雪風」の類似性を指摘する向きもあ
るようです。実際共通項はあるのです。
@戦闘機乗りが主人公であること
A主人公に「人間味」が薄いこと
B文体が(一見)ドライであること
けれど当然、両者は「似て非なるもの」であって、「スカイ・クロラ」の作者である森博
嗣は、真偽のほどは不明としても、SF評論家に「戦闘妖精・雪風」との類似性を指摘され、
「雪風」を読んだことがなかったと発言していることからも、両者が目指す方向性がまっ
たく違うのも間違いないわけです。
決定的に違うのが、主人公のパーソナリティがまるで違うという点。
「スカイ・クロラ」の主人公、カンナミ・ユーヒチは、優秀な戦闘機パイロットであり
ながら、生きるために飛んでいないのです。極論的に、「誰かに殺されるまで、暇つぶしに
乗る」、それくらいのスタンスで戦闘機に乗ります。
「戦闘妖精・雪風」の主人公、深井零は、同じく優秀な戦闘機パイロットながら、「生き
るために飛んでいる(負けなければ勝ち、自らと自らが駆る戦闘機が生き残ればいい)」、
そう思いながら飛びます。ここが決定的に違います。
で、どちらが好きかと聞かれれば、パーソナリティは圧倒的に深井零が好き(「雪風」か
ら続編「グッドラック」にかけて、饒舌すぎるほどに人間味を帯びていく描写も含めて)
ですが、カンナミ・ユーヒチの、「ハンバーガを食べ、ボウリングをする右手が、人を殺す」
というとんでもなく達観かつ諦観に似た感情についても、ある程度の理解ができるわけで、
共感までは行かずとも、嫌いではないわけです。
ただ、私個人が両者を呼んでいる理由(何度も読み返すほどに好きです)は、なんと言
っても、飛行機が飛ぶ、その一言につきるのです。
「スカイ・クロラ」も「雪風」も、共通項として、「現代の戦争を舞台としていない」こ
とが挙げられます。これが大きい。個人的な趣味として、あまり現代あるいは近未来の、
現在の国家間の関係、イデオロギーその他の延長線上にある戦争と、軍隊を舞台にした小
説にあまり興味が湧かず(「戦争物」小説にありがちな、軍隊描写が好きになれない)、そ
の点も両者を何度も読み返す理由かもしれないかなと。戦争を描くのではなく、パイロッ
トと戦闘機の関係を(あるいは、パイロットがなぜ飛ぶのかという理由を)描いているこ
と、それが面白いのです。
それで、自分でも「そういう」小説を書いてみたいと思ったのが、「Absolute Wing」の
始まり。タイトルは安直に、本サイト「MATERIAL」から、「Absolute Terror Field」の次
回にアップロードしたので、「飛行機ものだから、翼にしよう」とこれまたとんでもない理
由でつけてしまったのです。深い意味などまったくありません(ちなみに、第一回の冒頭
の三行の元ネタは、言わないでおきます。わかる人はわかると思うので)。
書き始めて結局今まで気付いたことは、私自身がいかにレシプロ・エンジン機について
の知識がないか、飛行機に関する知識と体験が足りないか、ということ、そして、創作に
関するオリジナリティの欠如に愕然としているわけです。
結局「スカイ・クロラ」になってしまったのです。
拙作に登場する戦闘機は、「スカイ・クロラ」に登場する戦闘機、「散香」がモデルです。
9月9日更新分の最下部に、拙作登場の戦闘機、「GC-8 X型戦闘機 ノスリ」の側面図
を載せてしまい、これを見られたら、「何だ、試作戦闘機の『震電』じゃないか」と言われ
てしまいそうですが、そうなると「はいその通りです」としか答えられません。
ただ、「推進式(プッシャー。コクピットより後方にエンジンとプロペラがあるタイプ)」
で「前翼式(水平尾翼がなく、代わりに機首部分に小さな前翼を装備した航空機の形式)」
で、となると、これはもう少ない知識を動員すると、「震電」か、さもなければ「王立宇宙
軍」に登場する戦闘機になってしまうわけで、このへんは許して頂きたい。
もっとも、拙作の「ノスリ」のエンジンが、レシプロとはいえ空冷なのか水冷なのか、
書いている本人もよくわかっていない部分があります。おそらくは星形空冷かな、とは思
うわけですが(9気筒並列で18気筒?)。だったら、側面図にある、機体下部のインテーク
はなんだと言われそうです。あれは冷却用空気の導入口だと思ってください。四式戦闘機
やマスタングについているものとは違う! と思いたいけれど、スタイルが好きだからく
っつけただけという安易そのものの発想です。すみません。
「スカイ・クロラ」の魅力のひとつに、戦闘機の命名があります。
シリーズにいまのところ共通して登場している戦闘機が、前述の前翼・推進式の戦闘機
「散香」。戦闘機らしからぬ名前で、私の不勉強ゆえ、由来がわからないのですが、とにか
く美しいです。以下に、「スカイ・クロラ」シリーズに登場する飛行機の名を列挙してみま
す。
散香(マーク○、と型式が分かれるようです。「スピットファイア」を思い出しました)
翠芽
紫目
泉流
染赤
なんとも風流な名前だと、恐れ入ってしまいます。
日本も大戦が終わるまでは、軍で運用する航空機にそれはそれはすばらしい名をつけて
いたのですが、今はもうそのような命名基準も名もありません(日本軍の戦闘機の名より、
「スカイ・クロラ」の航空機の名前の方が、個人的には好き、かな? 日本軍の戦闘機の
名では、陸軍四式戦闘機キ-61「飛燕」が圧倒的に美しい名前だと思います)。
そこで困ったのが、拙作に登場する戦闘機の名をどうするか、ということです。
型式名は車の型式にしてしまえと、「ノスリ」はスバル・インプレッサ(初代)から、「ハ
チクマ」は、スバル・インプレッサ(二代目、二回目のMC後の型式)、「敵」の戦闘機、
コードネーム「ミサゴ」は、JR貨物のディーゼル機関車の型式名、「味方」の偵察機「K-781」
は、国鉄時代に開発された交流型特急電車の形式名からもらいました。
いちばん困ったのは愛称です。
こんなに長い話にするつもりもなく、多種多様な戦闘機を登場させるつもりもなく、安
易に、まるでアメリカ空軍のように、猛禽の名をもらったのが失敗です。ノスリは猛禽の
仲間。「イーグル」「ファルコン」と同列のネーミングと化してしまいました。「ハチクマ」
も猛禽の仲間です。「サシバ」も「ミサゴ」も。
風流もへったくれもあったものではありません。
これならいっそ、第一回の方針を貫いて、愛称を使用しないという方向で進めた方がよ
かったかもしれません。
これがまず拙作について自らが感ずる不満のひとつ。
第二に、「スカイ・クロラ」の「キルドレ」という設定を引きずってしまった点。
何についてかは、もうご想像のとおりでございます。恥ずかしいので書けません。
これならまだ「夏の扉」の<施設>の人々の方が、よほどオリジナリティのある「特殊
人間ぶり」でした。
「スカイ・クロラ」では、「キルドレ」であることが物語のある意味核になっていますか
ら、「キルドレ」という概念なしには物語が進みません。ところがこちらは、おっさんパイ
ロットと彼の娘の話ですから、特に特殊人間が登場する必然がないのです。やられました。
つらつらと不満点を書いていくときりがないのですが、舞台設定と時代背景も、「スカ
イ・クロラ」の雰囲気をそのまま、私の読後感から引っ張ってきています。
ただ、「スカイ・クロラ」は、並行世界的な世界観を持っていますが(「二度目の大戦」
という言葉がそれを示していたりします)、拙作はもうまるっきり架空世界で徹底してしま
おうと、書いている本人も、この地球上に実在する場所だという概念を持って書いていま
せん。登場人物名が日本人の名前なのは、これも「スカイ・クロラ」の雰囲気をパクって
いるからで、深い意味はないのです。イライがアレクサンドルでも、ユウがゲルダでもど
ちらでもよいのです。ただ、登場人物名というのは、物語に与える印象を大きく変えてし
まいます。ちょっと以下で遊んでみましょう。
例文 Heidelberg Version
ハインツは放課後、村はずれまでゲルダと駆けていきました。ペーターゼン先生から、
今日は一年でもっとも日が長い一日だと聞かされたので、ベルガーさんの農場から、夕日
を二人で眺めようと思ったらからです。二人を追って、級友のオットーもついてきました。
この文章の登場人物名を全部入れ替えてみます。
例@ Novosibirsk Version
セルゲイは放課後、村はずれまでアナスタシアと駆けていきました。コズロフ先生から、
今日は一年でもっとも日が長い一日だと聞かされたので、ロマノフスキーさんの農場から、
夕日を二人で眺めようと思ったらからです。二人を追って、級友のアレクセイもついてき
ました。
例A Japan
勝は放課後、村はずれまで昭子と駆けていきました。小林先生から、今日は一年でもっ
とも日が長い一日だと聞かされていたので、高柳さんの農場から、夕日を二人で眺めよう
と思ったからです。二人を追って、級友の孝史もついてきました。
もうまるで雰囲気が変わってしまうわけです。
その辺りは、まあ無国籍な雰囲気を出せた分、いいのではないかなと拙作については考
えています。
イライだのチナミだの意味不明な名前の羅列ですが、ちょっと漢字名を書いておきます
ので興味のある方は読んでください。
イライ・ナツ(伊礼奈都)※こいつは男です
ハスミ・ライ(蓮見頼)※こいつは男です
タグサリ・リウ(田鎖柳) ※こいつは男です
ユサ・マカリ(遊佐真雁)※こいつは男です
アイズ・ナオ(会津奈央)※こいつは男です
キリウ・ソウイチ(桐生創一)
ホガリ・トシフミ(穂苅俊史)
ヌノベ・タケヒコ(布部岳彦)
セムラ・カズト(瀬村和登)
チナミ・ユイ(千波唯) ※こいつは男です
サトミ・ケイ(里見恵) ※こいつは女です
カンナリ・ユウ(神成勇) ※こいつは女です
ヨノイ・セイ(与野井晟) ※こいつは男です
こんな漢字(感じ)になります。アイズはアイヅだろうと言われそうですが、「アイズ」
でも「会津」と変換されるので了承してください。性別不明な名前にしたのも、狙ってま
す(問題は、現在までに本文中苗字以外で呼ばれているのが、ユウとケイだけなのですが)。
ちなみに「スカイ・クロラ」だとこんな感じです。
カンナミ・ユーヒチ(函南優一)
クリタ・ジンロウ(栗田仁朗)
トキノ・ナホフミ(土岐野尚史)
ササクラ・トワ(笹倉永久)
ユダガワ・アイズ(湯田川亜伊豆)
シノダ・ウロユキ(篠田虚雪)
ミツヤ・ミドリ(三ツ矢碧)
クサナギ・スイト(草薙水素)
許してください。名前までパクリました。
舞台については、一応、とある地域の地名を参考にしています。
興味のある方は、なんとなく地図でも開いてみてください。
というわけで、一応、まだ「Absolute Wing」は続く予定ですので、暇な方は読んでくだ
さいませ。
(2005-09-18)