北海道の港湾の長期ビジョンの作成とその背景
北海道開発局港湾部港湾企画官 川 合 紀 章
(札幌市在住)
はじめに
北海道開発局港湾部では、北海道の港湾の将来方向を展望した長期ビジョンである『個性的なみなとまちの創造−大交流時代の北海道からの発信−』を作成し、平成9年10月に発表しました。
この作成の背景の一つには、地方の港湾にとっては厳しい全国的な港湾政策の流れの中で、北海道の港湾の生き残りをかけるというようなところがあります。
以下では、この北海道の港湾の長期ビジョンの概要とその作成の背景について、私見をまじえて述べてみたいと思います。
大交流時代を支える港湾
運輸省港湾局では、平成7年6月に2010年をにらんだ新しい港湾政策ビジョン『大交流時代を支える港湾』を発表しました。
これは、阪神・淡路大震災をきっかけに露呈した日本における国際港湾の整備の遅れなど、これまでの港湾整備の問題点を踏まえた上で、厳しい財政状況の中で、効率的・重点的な港湾整備を展開していくというものです。
その中心となる政策は「大交流時代を支える港湾ネットワ−クの形成」、「活力を支え安心できる空間の創造」という二つの柱となっています。
このうちの大交流時代を支える港湾ネットワ−クの形成という政策は、地方の港湾にとって必ずしもアドバンテ−ジのものにはなっていません。この政策では、東京湾・伊勢湾・大阪湾の三大湾と北部九州にある港湾を中枢国際港湾として位置付けるとともに、全国を北海道、東北など8つの地域に分けそれぞれその地域を代表する港湾一つ(北海道は苫小牧港)を中核国際港湾と位置付けて、これらの中枢・中核港湾を重点的に整備していこうとするものです。その結果、これら以外の地方の港湾整備は抑制的なものにならざるを得ない状況になっています。
確かに、限られた財政状況の中で港湾の整備水準をできるだけ早く国際的なものにしていくためには、効率的・重点的な投資も必要だと思います。しかしながら、まさに「大交流時代を支える港湾ネットワ−ク」を形成するためには、中心的な港湾を補完する地方の港湾があってはじめてネットワ−クとしての機能が発揮され、その効率化が図られるのではないかというのが、われわれの主張なのです。
北海道の港湾貨物流動の問題点
北海道と外国との貨物の99.9%、北海道と国内他地域との貨物の90%が港湾を経由してきています。北海道の港湾貨物の特徴は、道内の資源型産業構造を反映して、バラ物貨物(bulk)の割合が大きいことです。バラ物貨物とは、飼料、肥料、木材、チップ、石炭など大量に運ばれ、かさの張る貨物のことをいいます。北海道の基幹産業が、酪農、農業、製紙、電力など、こういったバラ物貨物を多く原材料にしていることから、港湾貨物に占めるバラ物の割合が高くなっています。その割合は、全国が一般公共貨物の1/3程度なのに対し、北海道では80%にものぼっています。
こういったバラ物貨物は運賃負担力がなく、大量に運ばれるため、大型の貨物船により運ばれています。現在では、5万トンクラスの貨物船も多く北海道に運ばれており、年間200隻におよぶ5万トン船が北海道に入港しています。
しかしながら、北海道の港湾で5万トン船を受入れ可能な公共岸壁(-14m)は、平成9年12月に供用を開始した室蘭港の1バ−スのみであり、通常これらの船舶は喫水調整などにより入港しており、そのスケ−ルメリットを十分に生かし切っていません。
さらに、北海道は面積が広大である上に、冬の交通障害もあり、これらのバラ貨物を何台ものトラックで長い距離を輸送することは、物流コストのうちの大きな部分を占める陸上輸送コストを著しく高めることになるほか、排気ガスや交通混雑など環境問題も発生させています。
こういった、高い陸上輸送コストや大型貨物船によるスケ−ルメリットを生かせないことは、物流コストに大きく影響しており、北海道価格といわれるように北海道における産業の競争力を弱めている大きな原因となっています。
このため、北海道にあっても、岸壁の大型化とともに、地域の拠点的な港湾に需要に応じた大型岸壁を配置することが必要となっているのです。
個性的なみなとまちの創造
今回作成した北海道の港湾の長期ビジョンのタイトルは、「個性的なみなとまちの創造」です。その意図するところは、これからの港湾はそれぞれの地域の持つ特性を把握し、それに必要な役割を果たす必要があり、そういった港湾の整備が個性的なみなとまちづくりにもつながるということです。
先ほど物流の例を示して述べたように、港湾をとりまく現在の厳しい環境の中で地方の港湾が生き残っていくためには、地方の港湾がきちんとその役割と重要性を主張していく必要があります。地域を代表する大きな港だけを整備することが決して物流の面からは効率的ではないこと、それぞれの地域開発にあって港はそれぞれの役割を持っていることなどを訴えていく必要があるのです。
地域におけるそれぞれのみなとの役割を明確に、特徴的に出していくことが、これからの港湾整備を進める上で、極めて重要なことになってくるのです。
長期ビジョンの概要
以上のような考えのもとに策定した長期ビジョンでは、北海道港湾の長期的な方向として3つの目標と5つの施策をとりあげています。
この目標、施策は、北海道の港湾の現状を見据え、北海道港湾や地域の特徴を踏まえた上で、今後の北海道港湾の果たすべき役割を示したものです。それぞれの地域や港湾においては、さらにそれぞれが持つ特徴に基づき、これらのメニュ−の中から今後の港湾の方向性を取捨選択し、さらにその他のメニュ−を随時追加されることにより、個性的なみなとまちづくりへの主体的な検討がなされることを期待するものです。
この3つの目標は、「くらし」、「人間」、「自然」の3つのキ−ワ−ドから成っています。
「くらし」については、港湾に従来から期待されてきた物流・産業といった機能について、最近の動向や先ほども一例を述べたような今後必要となる展開を想定し、その具体的な施策を示したものです。
「人間」というキ−ワ−ドを港湾の長期政策で打ち出した例は少ないと思うのですが、今回の長期ビジョンでは、ひとつの目玉的なものになっています。これは、北海道のみなとはまちの発展と一緒になって発達してきたものが多く、とくに地方の港湾では普段の生活の中で港湾がまちの一部として意識されています。
こういった地域の特性を生かし、そこに住む人間が安らぎ、ゆとり、豊かさ、安心などを感じとれるような港湾空間の形成を図っていこうとするものです。
「自然」についてですが、運輸省でも最近エコポ−ト政策といって港湾整備において環境との共生や、さらには積極的に港湾環境の創造を図っていこうとする動きがあります。
北海道においても、もちろん豊富で貴重な自然があるわけですから、自然をいかに残して有効に活用していくかを考えた港湾の開発が重要です。自然に配慮し
た自然共生型港湾を実現することが今後の港湾の一つの姿であると位置付けています。
以上、長期ビジョンの概要を述べてきましたが、施策の詳細についてはここでは割愛させていただきます。興味のある方には、開発局、開発建設部築港課などでこの長期ビジョンの冊子を差し上げておりますので、ご利用いただければと思います。
厳しい情勢の中、必要な北海道の港湾整備を進めていくためには、これまで以上に地域が自己主張をしていくことが重要になっていきます。この長期ビジョンを受けて、それぞれの地域が「個性的なみなとまちの創造」に向けての議論を高めていただければ幸いと思っています。