港湾と経済
松 沢 太 郎
目 次
1 港湾法に港湾の定義がない
港湾法に「港湾」の定義が書いてないので、かねてから疑問に思っていた。
運輸省港湾局に行ったときにでも、権威者からそのことを尋ねてみようと思っていたが、ついにその機会なく、港湾関係の現職から離れてしまった。
公法部門の土地関係立法、例えば、河川法、海岸法、道路法、駐車場法、水道法、下水道法、都市計画法等を読んでみると、いづれも、「河川」、「海岸保全施設」、「道路」、「路上駐車場」、「路外駐車場」、「水道」、「下水」、「下水道」、「都市計画」等の定義が明確に書いてあるし、また、経済法部門の運輸関係立法、例えば、道路運送法、道路運送車輌法、通運事業法、倉庫業法、海上運送法、港湾運送事業法を読んでも、いづれも、「道路運送事業」、「道路運送車輌」、「通運」、「倉庫」、「海上運送事業」、「港湾運送」等の定義がこれまた明確に書いてある。
すなわち、2、3例示すれば、道路法では、第2条で、「道路」とは「一般交通の用に供する道(自動車のみの一般交通の用に供する道を含む。)で次条各号に掲げるものをいい、トンネル、橋、渡船施設、道路用エレベーター等道路と一体となってその効用を全うする施設又は工作物及び道路の附属物で当該道路に附属して設けられているものを含むものとする。」と書いてある。
また、倉庫業法では、第2条で、「倉庫」とは、「物品の減失若しくは損傷を防止するための工作を施した土地若しくは水面であって、物品の保管の用に供するものをいう。」と書いてある。
ひとり港湾法のみ、「重要港湾」とは、「国の利害に重大な関係を有する港湾」で、「地方港湾」とは、「重要港湾以外の港湾をいう。」と割り切って書いてあるが、肝心の「港湾」そのものの定義については何も書かれていない。
そこで、なぜ、港湾法に「港湾」そのものの定義が書かれていないのかを考えてみた。
港湾法を熟読すると、港湾法でいう「港湾」には広狭二義があるようである。
まず、狭義の場合の「港湾」とは、物理的な「港湾施設」(港湾法第2条第5項第1号から第13号に掲げる施設)を指しているようである。
すなわち、(1)水域施設 航路、泊地及び船だまり。(2)外かく施設
防波堤、防砂堤、防潮堤、導流堤、水門、こう門、護岸、堤防、突堤及び胸壁。(3)けい留施設岸壁
けい船浮標、けい船くい、さん橋、浮さん橋、物揚場及び船揚場。(4)臨港交通施設
道路、橋りょう、鉄道、軌道及び運河。(5)航行補助施設
航路標識並びに船舶の入出港のための信号施設、照明施設及び港務通信施設。(6)荷さばき施設。
固定式荷役機械、軌道走行式荷役機械、荷さばき地及び上屋。(7)旅客施設
旅客乗降用固定施設、手荷物取扱所及び待合所。(8)保管施設
倉庫、野積場、貯木場、貯炭場、危険物置場及び貯油施設。(9)船舶補給施設
船舶のための給水施設、給油施設及び給炭施設(港湾役務提供用船舶を除く。)(10)港湾厚生施設
船舶乗組員及び港湾労務者の休泊所及び診療所。(11)港湾施設用地
前各号の施設の敷地。(12)移動式施設
移動式荷役機械及び移動式旅客乗降用施設。(13)港湾役務提供用船舶
船舶の離着岸を補助するための船舶並びに船舶のための給水、給油及び給炭の用に供する船舶。
以上の13が港湾施設である。
要約していえば、Portの意味のようである。
広義の場合は、「経済的に一体の港湾として管理運営」(港湾法第4条第6項)、「港湾の発展」(同法第12条第1項第2号及び第7号)、「港湾の利用」(同法第12条第13号)、「港湾の開発発展」(同法第37条第2項)等の字句にみられるように、港湾経営的な意義を含んでいるようである。
すなわち、Port Operationの意味のようである。
われわれ交通関係者は、港湾を物理的すなわち工学的に観察するばかりでなく、より一層、経営的な立場でながめることが極めて大切であると思う。
2 社会、経済的にみた港湾の分類
港湾法では、港湾を特定重要港湾、重要港湾及び地方港湾の三つに分けている。
このような、港湾の港格上の分類とは別に、港湾を機能上から次の四つに区分してみたい。
(1) 物的流通港湾
(2) 工業生産港湾
(3) レクリエーション港湾
(4) 生活港湾
の4つである。
(1) 物的流通港湾
大量生産、大量消費が本格化し、労働力不足が深刻化するにともなって、物的流通面でも、パレット、コンテナーなどユニットロードシステム、物資別専門輸送方式等流通体系の近代化、合理化が急速にすすんできた。
したがって、今後の港湾は、単に従来方式のふ頭を整備することにとどめす、コンテナーふ頭、物資別専門ふ頭、各種の荷役機械等新しい流通システムに適応した施設の整備が必要であろう。
また、このような流通体系の近代化、合理化をより一層促進するためには、トラックターミナル、鉄道の拠点貨物駅、倉庫、中央卸売市場、商社、問屋、金融機関、コンピューター等を1カ所に集約化した流通団地の整備が必要である。
このような港湾こそ理想的な物的流通港湾である。
(2) 工業生産港湾
近年、わが国の製造業は、国際競争力に勝ち抜くため、設備の新設、拡充に努めている。このため、臨海工業地帯における工場規模の大型化は著しいものがある。
もっとも、最近のわが国は、実質的な平価切り上げを意味する変動相場制の移行によって、関係者は不安の中に喘いでいるが、いづれ、景気浮場のあかつきには、民間設備投資は再び活発化するであろう。
このことに備えて、手を弛めることなく、港湾施設をはじめ、高速度自動車道路、新幹線空港等一連の交通施設を先行的に整備する必要があろう。
また、このような公共投資は不況克服のためにも役立つものである。
(3) レクリエーション港湾
所得の向上、余暇の増大等にともなって、わが国のレクリエーション需要はますます大きくなることが予想される。この需要を満たすため、ヨットハーバー、海浜プール、魚釣りポート、マリンランド等の施設をもつ総合的なレクリエーション港湾の整備が必要であろう。
(4) 生活港湾
流通港湾ともいい難いが、一つの部落の生活の場としての港湾がある。例えば小規模な漁港である。
識者は、このような多くの小さな漁港は廃止して、大きな中核的漁港に集約した方が経済合理主義にかなうと主張されるが、私はそれらの部落に住む人々の生活のために、小さな漁港も必要であると思う。
また、避難港などは人命尊重の見地から重要である。生活港湾は、あるいは、社会港湾といってもよいかもしれない。
更に、港湾には属さないが、国民の自然への渇望に応ずるため、国立公園、国定公園、道立自然公園等の自然保護地域内の海岸と侵蝕性海岸には海岸保全事業を行なうことが必要である。
3 港湾都市の経済集積
北海道には31の都市があり、そのうち、港湾都市は10である。表−1で北海道の港湾都市の主要経済指標を示し、これを全道都市と対比させてみた。
区 分 |
都市数 |
人 口 |
工業出荷額 |
商品販売額 |
| 全道都市(A) 全道港湾都市(B) B/A(%) |
31 10 32.3 |
336万人 111 33.0 |
10,063億円 5,639 56.3 |
27,529億円 7,346 26.7 |
注:
(1)港湾都市は、小樽、函館、室蘭、苫小牧、釧路、根室、網走、紋別、留萌、稚内の10市。
(2)人口は、昭和45年10月1日国勢調査。
(3)工業出荷額は、昭和44年1月1日〜昭和44年12月31日。工業統計調査。
(4)商品販売額は、昭和42年7月1日〜昭和43年6月30日。商業統計調査。
この表を、全国の人口10万人以上の都市についてみると、表−2の通りである。
区 分 |
都市数 |
人 口 |
工業出荷額 |
商品販売額 |
| 全国都市(A) (10万人以上) 全国港湾都市(B) B/A(%) |
131 |
4,573万人 |
15兆9,100億円 |
29兆4,100億円 |
注:
(1)人口は、昭和40年国勢調査。
(2)工業出荷額は、昭和38年、商品販売額は、昭和39年。
(3)表−1と表−2は調査年次に数年の開差があるが、B/Aの数字にはそれほど大きな影響はない。
上記2表より次のことがいわれる。
全国では、人口、工業、商業等の経済活動が66.5%、77.3%、85.3%と港湾都市に集中しているが、これに反し、北海道では、経済の臨海都市依存の割合は全国に比べて小さい。このことは次の2つの理由に基づく。
要するに、北海道の港湾は、物的流通の場ではあるが、商業活動は低調で人口比よりも小さく、工業生産の場として室蘭、苫小牧の両市があるが、わが国港湾都市全体のように、人口、工業、商業のいずれにおいてもその比重が高いこととは幾分趣を異にしている。
4 港湾の陸上貨物の流動
われわれは、港湾の大きさをはかる物指の一つとして、平常、港湾取扱貨物量をとらえてきた。このことは、港湾の規模を計画する場合に重要であるが、近来、港湾は海陸輸送の結節点として、海送貨物ばかりでなく陸上貨物の流動状況をも併せて知ることが極めて重要となってきた。
運輸省はこれらの諸点に注目して、港湾別に陸上勢力圏の実態と海陸両面にわたる貨物の流動状況を把握して、港湾の開発、利用、管理に資するため、「陸上出入貨物調査」を実施している。
この陸上出入貨物調査の数字から道央地域を観察してみた。
周知のとおり、道央地域は、現在においても、また将来においても、北海道の経済発展を先導する場であるから、この地域内にある小樽、室蘭、苫小牧の3港と大消費都市札幌との関連を、港湾貨物の陸上流動でみてみる。
前項でのべたように、内陸都市札幌は、人口、商業等の集積が大きく、従って消費、流通面で大きな比重を占めているので、札幌の存在が前記3港に大きな影響を及ぼしていることは常識上からもよくわかる。
また、北海道の石炭生産の60%が本州に供給され、その積出し量の66%(昭和43年)を前記3港が受持っていることにより、港湾取扱貨物中における石炭移出のウエイトが大きい。
これらの事実から、3港を中心とした大陸貨物流動図を画いてみた。
図 道央地域の港湾を中心とする陸上貨物流動(昭和41.6.1〜6.30
1ヵ月間)
この図からわかるように、セメント、自動車、石油等の都市型消費財が3港から札幌圏に向かって流動し、その港湾移入量(揚陸)に占める比率は、小樽港34.4%、室蘭港28.6%、苫小牧港63.7%といづれも大きく、一方、空知圏の石炭が3港の移出量に占める比率は、小樽港84.7%、室蘭港73.0%、苫小牧港92.3%と異常に大きい。
これを極言すれば、3港は、室蘭の鉄鋼生産の場、苫小牧のアルミニウム、紙等生産の場の意義を除いては、3港とも札幌圏の消費財を揚陸し、空知圏の石炭を積出すという二つの役割を果たしている港であるといっても過言ではない。
私は、これら3港が将来は自らの直接背後圏の地域開発に忙殺され、札幌圏の消費財は石狩湾新港に任せるという程の成長を願ってやまない。
(筆者は本会理事、東急建設(株)顧問)