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我国外航海運業の現状と諸問題
岡 村 俊 夫
1. はじめに
2. 不定期船について
A 契約の長期化
B 船型の大型化
C 三角航路配船
D 今後の問題点3. 定期船について
A 労賃(ステベ賃と船員費)
B 稼動日数(航海日数と在港日数)
C コンテナー輸送方式4. 建造計画と船社の体力
A 6年間の建造予定量
B 船社の体力
C Riskへの挑船5. 円切上げの問題
1 は じ め に
我国の船腹保有量は昭和44年7月現在で下記の通り
シベリア 29,215.000総屯
英 国 24,574,000 〃
日 本 23,987,000 〃
世界第三位となつて居ります。共産国も含めて全世界船腹量が約2億3千万総屯ですから日本は1割強を保有して居る事となります。毎年計画造船と自己資金船が300/350万総屯増加しますので昭和44年末には英国を抜いて世界第二位になつて居る事は確実です。
第二次大戦に因り壊減的打撃を受けた為終戦直後太平洋を渡る資格を持つた船は数える程しか無い惨状となり、現在から見れば全く零に等しい所から立上つたと言つても過言ではありません。この発展は四面環海の日本の生きる道は貿易であり経済、貿易の発展に因る船腹の需要が極めて大であつた事が基盤になつたものと考えられます。この船腹拡張の需要を可能ならしめたものは戦争に因り総てを失つて体力のない海運会社に融資された財政資金並びに国際競争力追加の為出された利子補給の措置であつたと思います。
前記昨年7月1日現在の我国保有量の内訳を見ますと
| 一般貨物船(含定期船) | 8,918,000総屯 |
| 専用船(鉱石、石炭、其他バルク物) | 6,950,000 〃 |
| 油槽船(含oil/ore) | 8,020,000 〃 |
| コンテナー船 | 99,000 〃 |
| 計 | 23,987,000 〃 |
となって居ります。夫々の船種が殆んど零から出発してこの様に大きな船隊となつた訳ですが、この間に於ける大きな流れはバルク部門に於ける船型の大型化専用船化並びに雑貨の専用船化とも言う可きコンテナー船化の方向であると申せましよう。
一口にに海運と言つても製品、半製品、原材料の一部を主体とする雑貨を運ぶ定期船と、バルキーな原材料を運ぶ専用船、 タンカーを主体とする不定期船とでは船型、運航形体契約方式が全く異つている為COSTの計算方法、合理化の方法等も違つて来るのは御承知の通りです。
2 不定期船について
先づ不定期船に付いて見れば、私共は物価と言う言葉を聞くと年々上るものと考える様に習慣付けられて居りますが、専用船(含油槽船)の運賃は数少ない例外の一つになつて居ります。
戦前は不定期船運貨の上り下りが激しく、海運会社の消長もマーケツトの如何に左右され船会社は9年間赤字でも市況が上れば(多くは何処かに戦争がある時)一年で取り返す、などと言われて居りました。
A 契約の長期化
この種市況の変動が海運業に与える影響が大きい事は勿論ですが、それは同時に船に積まれた貨物の輸入国の工業や経済全般に亘つても大きな打撃を与えるものでした。この波動を乗り越える方法として先づ契約の長期化、次に船型の大型化、の二つの段階を通つて今日の専用船全盛時代に入つて来ました。
朝鮮事変以来タンカーに付いては一年契約が出て来て居りましたがdry corgoに付いてはせいぜい2/3航海の契約になつて居りました。
第一次スエズ封鎖の際市況は急上昇し当時市況のバロメーターであつた北米東岸のハンプトン/欧州の石炭運賃が屯当り100シル程度になつた頃欧州輸入業者が3年或は5年の長期契約により70シルとか50シルの安いレートの船(当時は全部10,000屯型)を掴む事に成功しました。当時日本は未だ経済の底か浅くその様な長期の国際契約をする実力が無く製鉄会社か長期物に乗出したのは一年位遅れた様に記憶致します。
B 船型の大型化
次に船型の大型化になる訳ですが、実例を上げますと、大量に輸入されている南米西岸の鉄鉱石は昭和31/32年には114,000屯型trip charterで14〜16ドルもしていたのに昨今では10万屯型の鉱石専用船で4ドル台て運ばれて居ります。
これには種々の原因が考えられますが、大きく分けて下記の4つ位が上げられます。
a)造船技術の進歩に依り大型の船体並びに高馬力のエンヂンが製作可能となり更にその間に於ける工程の合理化により、大型化による屯当り船価が逓減した。
b)船社から見ると屯当り船価の逓減により輸送cost 中に占める減価鎖却費の大巾減、更に屯当り船員費(1万屯型でも5万屯型でも乗組員の数は余り変らない)其他運航費、諸経費が屯当り逓減する。
c)前提とする長期契約により貨物が確保されている為船社としては本船のcost ブラス僅かのマーヂン程度の運賃で契約しても損をしない。
d)経済の大型化により企業体及積揚国に体力が付いた為積揚両端の港湾施設を船型に合せて大型化出来る様になつた。
等の埋由で船型が大きくなるに連れて屯当りcost は安くなると言うメカニズムが働く事となつた訳です。この形式で船型は3万屯型から始まり、屯当りcost downの要求と港湾の大型化と共に船型は逐次大きくなつて、現在では鉱石船10万屯タンカー20万屯が普通のsizeになりましたが更に大型化の方向に進んで居ります。但し船体の大型化に依る屯当り船価逓減は計算上この程度が限度でこれ以上の型は必ずしも船価逓減のメリツトは生まぬと言われて居ります。従つて現在計画されている35万屯型或は将来建造されるであろう所の50/60万屯、更に100万屯型はCTS方式と言われる一つの基地に大量に運び其処から更に工場或は精油所に分散輸送を目的としたものが主体となつて居ります。
C 3角航路配船
船型大型化による船価逓減或は港湾設備に限界があると言う事で、更に運賃を下げる為に別なideaが導入されました。即ち従来の片道満船片道空船で走つていたのに対して、三角航路の二辺を荷物を積み残りの一辺のみを空船とした方が効率が良く、運航cost が安くなると言う事です。通常OBOと呼ばれてOIL、BULK(石炭其他)、OREの何れでも積めるタイプの船ですが前述の南米日本鉄鉱石の千ドル台の運賃もこの形式で市況が下つたものに対抗する為に出たものです。この方式は理論的には誰でも考える簡単な原理ですが実際に2つの貨物(通常油と鉄鉱石又は油と石炭)をCOMBINEする為には世界的な情報網と極めて高度な判断と営業努力を必要と致します。
D 今後の問題
この辺り迄は順調にcost が下つて来た訳ですが、昨年(44年)より造船に必要な鋼材、主機関を始めとする機械類並びに諸資材、人件費等の上昇に因り新造船価は急速に上り始めて居ります。一方海運会社に付いては従来毎年の船員費の上昇を船型の大型化によりABS0RBして来た訳ですが今後の船員費upは丸々船社負担となつて来ます。
船価の上昇は各国船主著しく影響を受ける訳ですが、船員費の増加率は我国が世界最高で、毎年一人当目名17%程度に及んで居ります。
御承知の通り米国では船員費か高い為、専用船油槽船の大部分を便宜置籍船とし(冒頭のリべリヤ籍船の3/4割は米国船主の所有)外国人を使用、特に普通船員は低賃金の後進国船員を乗せて居ります。日木船の場合は資金面並びに海員組合の関係からの制約もあり、大きく踏み切る事が出来ない実情にあります。
日本船主はこのハンデイを乗り切る方法を見出さねばならない立場に立たされた訳ですが、それは今後の技術開発によりMO(ゼロ)船と呼ばれる完全自動化船、無線操従による無人船の方向、或は現在では末だcost が高いですが原子力機関による高速化等の積極的な開発に進まねばならないと思います。
3 定 期 船
次に定期船に付いて申上げれば、定期船は前述の専用船とは船型、運航形態、契約万式も異つて居り、最大の弱点は世界的な労賃の値上りと稼働日数の減少に因り、毎年連賃を上げなければならない事にあります。
A 労賃(ステベ賃と船員費)
定期船の場合は輸送契約がバースタームとなって居る為、積揚船内ステベ賃は船主負担です。この荷役費用は航路によつて違いますが、大ざつぱにみて収入運賃の35%程度になつて居ります。又或る船の収支を仮にトン<(償却は出来るが配当は出来ない)とした場合の船負費は収入連賃の25〜25%に当りますので、極端な表現をすれば、定期船の場合収人運賃の5/6割は人件費であると申せます。
従つて船主側cost から見れば毎年ステベ賃と船員費の上昇分だけ運賃の値上げをする必要がある訳です。然し乍ら実際には荷主の抵抗や盟外船との競争から来る圧力でこのcost upを完全にcoverする事は不可能で、長期的に見ればヂリ貧になる事は明らかです。
B 稼働日数(航海日数と在港日数)
定期船に関するもう一つの問題は稼働日数です。即ち年間365日内約200日が航海で残りが港内に居るのが現状となつて居ります。木来の荷役日数及荒雨天の外に荷役待日数が多くなつた為この様に在港日数が多くなつた訳ですが、之は貿易量の増大により世界的に各港の船混みによるバース侍ち、ステベ不足に因る船待ち、ステべが強くなつて夜荷役や休日荷役をやらなくなつた港が増えた(要ずるにステべが働かなくなつた)事のしわ寄せを受けたものです。そうしてこの在港日数の増加傾向ほ今後も続いて悪化する傾向にあります。
C コンテナー輸送方式
上記労賃の上昇と在港日数増加の両方の問題を合せて解決するのが数年前米国SEALAND社、続いてMATS0N社に依り開発された
CONTAINER輸送方式です。日木でも43年8月日本郵船箱根丸に続いて5隻が日本/加州航路に就航し昨年は日本/豪州間、今年ほ日本/北米西岩(シアトルバンクーバー)に就航し、更に欧州航路、紐育航路にも使用される計画になつて居ります。
コンテナー船は一口に言えば雑貨の専用船化であり海陸一貫輸送を目的とする輸送革命ですが、この方法に依れば天候に関係無10,000屯の貨物を24時間で積む事が出来る為、従来日本/加州を/ROUND 45/50日掛かつて居たのが僅か28/30日で完了出来る事となりました。尤もコンテナー船を走らせる為には両サイドの港湾、ターミナル設備を要し、更に背後の道路網の整備か出来ていないと意味が無い訳です。その為に巨額の公共並びに私企業投資を必要とする事は勿論です。従つて双方の国が経済的にこの負担に堪える程度に進んだ経済圏である事を必要と致します。
70年代ほコンテナ化時代と言われて居りますが前記日本/欧州間には71年末から50,000屯型8万馬力26節と言う大型船が一船当り1.800個のコンテナーを積んで走る事になります。
これをお金の面から見ますと、本船1隻の船価約60億円として(実際はもう少し高い)それに附帯したコンテナー並びにターミナル関係の必要諸設備(公共投資に依るものを除く)を入れると1隻当り約100億の投資になります。この船は乗組員22名として1人当4..5億強ですが本船の回転、大きさを考慮に入れると在来船の倍以上の輸送効率となりますので乗組員1人当9億円位の設備投資となります。現在日本/欧州間就航中の優秀在来船(乗組員40人)の船価約18億とすればこれ等の在来船は船長と機関長の2人が動かさないと同じ効率にならない計算になります。
4 建造計画と船社の体力
定期船、不定期船(専用船)共この様に資本集約方向に急速に進んで居る訳ですが、企業がこの巨額の投資に堪える体力を持続する事が次の重要な問題となつて来ます。
A 6年間の建造予定量
此所で今一度我国保有屯数に立戻つて見ますと、昭和43年7月始め、1,967万総屯でリべリア、英国、ノールウエイに次いで世界第5位であつたのが昨44年7月には23,987総屯で弟三位、公表された数字はありませんが只今現在では英国を抜いて世界第二位に進出して居ります。
政府は昨年春策定致しました経済社会発展計画の中で船腹増強に関して、昭和44年度から49年迄の6ケ年間に外航船腹2,050万総屯建造の計画を建てゝ居ります。これにより昭和50年春には昨年春(計画策定当時)の約2倍に当る約4,300万総屯を保有する事になる訳です。
この計算のBASE は日本経済の実質成長率を毎年8.5%とし、船社の体力の許す範囲で建造して結果的に目標年次に於ける海運関係貿易外収をトントンに持つて行く(邦船のシエアー輸出6割輸入7割)様に算出されて居ります。
然し乍ら其後の日本経済の進展状況から見て経済成長率は毎年10%を越える事がほゞ確実となり、上記2,050万総屯建造計画は修正する必要が生じました。其後の概算では貿易外収支を均衡させる為には莫大な建造量を要し、海連会社の体力が許さない為、現在程度年約8憶弗程度の貿易外収支(海運関係)の赤字は巳むを得ないものとして、せめて輸出5割輸入6割程度を邦船に依り輸送するものとして計算すると約3,000万総屯と居われて居ります。
B 船体の体力
最終的に2,500/3,000万総屯何れになろうとも戦後20年も掛つて建造した船腹と同じ式はそれ以上の屯数を僅か6年間に建造する事となる訳です。この建造量を達成する為には財政、市中、自己資金合せて毎年2,000憶以上の資金の調達を必要とする訳で、如何に体力が付いたとは申し乍ら海運会社にとつて極めて大事業である事には変りはありません。
因みに昭和43年3月末決算時に於ける全海運会社の自己資本比率は下表の示す通り
(運輸省毎運白書44年度版88頁)
昭39年3月 昭43年3月
負 債 比 率 524 (284) 617(367)
自己資本比率 16 (26) 13 (21)
固 定 比 率 528 (188) 579(211)
( )内は全産業平均
悪化の傾向にあり、各指標共全産業平均より極めて低位にあります。但し海運業の場合この種諸指標の持つ意味は一般産業の場合に比べて多少ニュアンスが異つているので必ずしもこの数字が示す程不建全なものではありません。それは次の様な事情があるからです。
海運会社の固定負債のDOMINANTな部分が日本開発銀行から融資される財政資金であり、定期船、専用船(含タンヵー)等個々の会社によりWEIGHTの差はありますが大ざつぱにみて全体の約半分位が専用船による長期(普通10年以内)契役の裏付の下に融資されている資金が多い点に特色があります。
又定期船、専用船の建造に当つては故府機関である開発銀行の極めて精巧な(場合によつては当該船主よりも豊富且つ正確な資料を揃えて判断すると言われる)審査により融資されています。この方法は安全で昭和39年海運会社再建整備以来全船社が建全化した最大の原動力となつて来ました。強いて難を言えば市況によつては船社が大きく儲けるチヤンスを矢う事も無い訳ではないと言う事でしよう。例えば、
昨年夏以来タンカー並びに不定期船運賃が非常に上昇して居りますが、日本船の大部分は10年間張り付け契約に縛られている為外船の儲けるのを指を喰えて眺めている情況です。
C RISKへの挑戦
この市況がどの位続くのか、もう再び元の低い水準に下る事は無いのか、神ならぬ身の知り得可くもありません。何れにしても今後は各社体力に応じて何隻かFREE な船を持つ事に依りRISK を負うと共にチヤンスへのCHALLENGEをする事に依り収益を上げる事を計つて企業責任を明確にする方向に行く可きではないかと思いまず。
前述のコンテナ方式についてもそれが理論的必然性を持つていたとは申し乍ら邦船社が加州航路を始める時点では末だ体勢整はぬ内に米船から売られた喧嘩を受けて立つた形であり、同じく可能性への挑戦であつたとも申せましよう。
日本/北米のコンテナ船は事前推算では年約10億の赤字と言われて居りましたが、実際に運航開始された時には、貿易の急進展と時代の要求にマツチしたものであつた為予想以上の貨物が流れ込み年数億円の黒字(計算方法により異る)と言われて居ります。
其後豪州を始め世界各地向航路がコンテナ化されて参りますが全部が加州と同様の好結果になるとの保証は全く無い訳で、今後の貿易の伸びと関係者の努力如何に懸つている事は申す迄もありません。
今後は各船社共現体力に基き定期不定期共比種RISKへの挑戦を行う指命を負つているものと考えられます。
5 円切上げの間題
最後に我々の最も恐れているものでは最大の問題は円切上げの可能性です。
御承知の通り外航海運はSERVICE (輸送) と言う商品を売つて居る訳で、而も製品の全部を外貨で売らねばならない縮命を持つて居ります。国際市況が下つたからと言つて10万屯の船を国内航路に使う事は出来ない相談です。外航船の運賃は総べて弗建てになつて居りますから仮に円が1割切上げられたら、全船社の収人が1割減少する事になる訳です。 (実際には海外に於ける荷役費バンカー代等は弗で支払う為ネット収入減は1割以内となりますが)。
新聞の解説や経済誌でほ円貨切上げの場合造船、自動車、プラント物等の輸出産業が蒙るであろう損害が華やかに問題にされて居りますが、全収入について影響を受ける点では海運が一番打撃が大きい事になります。従つて外航海運を主力とする会社は最大の円切上げ反対の主張者である訳です。
米国景気の低滞に伴れ北米向輸出の純化傾向、日本国内に於けるインフレの進行等反対の材料もありますが、日本経済の対外競争力の低力から見て今後も外貨の畜積は増加し円貨切上げの圧力が強まるとの見方が一般的通説となつて居ります。他方には強力な反対説もありますので反対説が的中する事が望ましいと考えて居ります。
仮に切上げが行なわれた場合次の均衡が出来る迄数年の間持ち答えるに十分な体力を至急に畜積しなければならない、と言われるのが日本の海運会社にとつて当面最大の問題であると申せましよう。 以 上
(筆者は本会理事、日本郵船KK札幌支店長)