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北海道にこそコミューター航空を

萩 原  英 三

北海道住宅都市部都市計画課長


1. コミューター航空とは
 最初に, コミューター航空とはどのようなものかについて新聞記事を紹介しよう。
 日本経済新聞に「急浮上コミューター航空」(59.1.17)の中で,『コミューター(Commuter) とは,本来定期乗車券使用者といった意味の言葉だが, ここから近距離の航空路線を示す言葉としても使用されるようになった』 と記されている。
 また, 読売新聞の論点に「地域航空網整備の時代」(59.1.6) と題して広島大学津端修一教授は, 『コミューター航空とは, 身近なコミュニティを小型機で結ぶ新しい地域航空ネットワークのことであり, 800メートル以下の滑走路を利用し, 20人乗り以下の小型機で高度3,000メートル, 飛距離200キロメートル以下の中距離運航をする交通で,すでえが小型のシステムと常識的に考えれば良い』 と書いている。
 ご承知のように北海道にも現在, 稚内〜利尻(78km)、稚内〜札文(89km),函館〜奥尻(182km) をツインオーター機(19座席)の小型機が運行しており, 従来から離島航路と呼ばれているが, まさにコミューター航空である。
 国土の均衝ある発展を図るための高速交通ネットワークの必要性については今更言うまでもない。しかし,肝心の国の財政が危機的状況にある以上, 高速道路や国鉄新幹線等の建設は容易ではない。たとえ建設されたとしても, これらの恩恵に浴せない空白地域が存在すること等から, わずかの費用で高い移動性(ハイモビリティー) を確保できるであろうコミューター航空が浮上しても不思議ではない。
 現在, 全国的な組織としては「全国地域航空システム推進協議会」が全国の関係自治体で昭和58年発足をみている。自民党副総裁を会長として「地域航空システム推進議員連盟」が発足したことが報じられており, また, 昭和59年「もう一つの空−コミューター航空の明日を考える」をテーマとして, 石田科学経済研究財団主催で名古屋市でシンポジウムが開催される等, ここ2〜3年コミューター航空の論議が盛んになってきている。

 

2. 本道の高速交通の現状
 そこで北海道における高速交通の現状はどうか。まず高速道路について1,020kmが予定路線として法定化されているが, その内開通しているのが130kmで1,020kmに対してわずか13%(全国45%)で本年度開通が予定されている26kmを含めても供用率は15%, 156Kmにすぎない。
 今後の見通しについて試算してみると, 昭和53年から58年までの6年間で, 82kmが供用しており年平均では約14kmとなっている。仮に単純計算してみると, 残延長は, 1020−156=864km, 完成までの所要年数は864÷14=61年となる。更に建設費について過去の実質平均値等から現在の経済状勢のもとで試算すると, 概算であるがおそらく2兆2〜3千億円はかかるのではないだろうか。いづれにしても全線開通には長期間を要することは間違いない。
 一方, 国鉄新幹線については, 青函トンネルの有効活用が論議されている段階であり,札幌までの目途は全くついていない現状と認識せざるを得ない。このような現状から, 北海道の高速交通ネットワークは, たとえ高速道路が完成されたとしても, 高速交通の空白地帯となる地域に小型空港を建設して現在の空港と結ぶ空のネットワークを作ることが北海道にとって必要であり, かつ緊急の課題と考えられる。

 

3. 農林水産業とコミューター航空
 なぜコミューター航空が必要であるかと言うことに対して, 私は, 特に北海道の農林水産業に着目したい。 農林水産業は, その本来目的の生産と言うことだけでなく, これを通じて, 簡単に金で買うことができない国土を荒廃から守り, 保全するものである。 従ってこの産業に従事している人達が, 安心して生活のできる定住地を確保することが必要であるという視点から, 私見を述べてみることにしたい。
 先ず, 本道は現在, 32市156町24村の212市町村からなっており, その内都市計画区域指定は32市68町の100市町である。全道の面積は835万ha, この内都市計画区域指定面積は62万haで全道の7%に過ぎないが, この面積のなかに全道人口の83%が居住している。(全道人口5,639,900人−都市計画区域指定内人口4,666,400人−58年3月31日現在住民基本台帳)
 この広大な北海道で, 面積わずか7%のなかに人口の83%が居住していることは異状と言わざるを得ず, 残り93%の面積を973,500人の人々の生産活動を通じて, その保護保全に何らかの形で貢献しているとみなして良いのではないだろうか。 この人達は都市計画区域の指定を受けていない112の町並びに村に居住している。(本道の一次産業に従事している人口は, 昭和57年現在で342,000人で, 全道人口の約13%を占めている一就業構造基本調査)
 私は, 農林水産業の専門家でもなく, ましてや経済面など全くの素人である。しかし,我国において,今後, 高度成長を期待することは無理で,安定成長が続くものと考える時に, このような社会経済状勢のもとでは, 極端な話かも知れないが企業誘致などの努力は必要としても, 北海道の全市町村に企業がはりつき, 2次産業に頼って行くことにはならないと思う。
 北海道は, 何といっても, 農林水産業を基本産業として, 従来までのような単品ではなく, 付加価値を高める1.5次産業にカをそそぎ, 労働力を農山漁村に環流させるべきでないかと常日頃考えている。 しかし今, 本道における農業についてみると水田の減反を始めとして幾多の困難な問題をかかえている。緑資源の維持を強調されている前農林水産省の松本作衛事務次官は「日本農業変革の時代」と言う本の中で, 『水田は水保全の機能, 土壌保全の機能, 作物に対する保全の機能と言う事と共に単位当たりの生産力として非常に高いものを持っているんです。ですから, やはり我々は, ここで水田の持っている, 自然資源としてのカ, と言うものを再評価して, これを生かして行くような形をとっていかなければならないのではないか, と思っているんです。』
と話しております。
 酪農をみると, 乳牛は牛乳の生産調整, 肉牛については, 日米貿易摩擦による農産物の自由化にオレンジと共に牛肉があげられる等, これら生産にたずさわる人々は苦難の道を歩んでいる現実である。もちろん生産者自体の体質改善も必要であるとの意見が出ていることも事実である。
 また, 林業は木材価額の低迷で, はかばかしくない。山村に林業にたずさわる人が居り,常に山を管理していかなければ, 森林の健全性は保たれないと考えるが, 私のような素人よりも前述の松本さんが次のように話されている。
 『日本の森林は戦後に植林されたものが大部分でして, 35年生未満の手入れを必要とするような樹齢のものが約8割を占めているわけです。そうしますと, こういった手入れの必要なものが手入れをされないままに放置されて、非常に荒れてきている。 と言う実態を直視しなければならないことになってきたと思うんです。そのことは, ただ単に林業者が努力をしないと言うことではなく, 林業をとりまく条件が非常に悪くなってきていますね。 山村からは人がいなくなり, 林業に従事する労働者が急速に減少し, しかも老齢化している。その上に木材価額が低迷し, 一方で労賃であるとか, 林業生産に必要な燃料であるとか, そういう物財費は高くなってきていると言うことですから, 林業の経営収支と言うものは非常に悪化してきているわけです。 したがって, 林業者の個人努力だけで山の木を育てていくと言うことが非常に困難になってきている, と言う現実があると思うんです。 ですから, そこをなんとか解決していかないと, 日本の森林は守っていけない。森林が守れないと言うことは国土が守れないことであり, 森林に支えられて水資源をかん養してもらっている農業も成り立たなくなっていく, と言うことになると思うんですよね』
と話されており, 全くその通りではないだろうか。世界的にも緑の保護が叫けばれており,昨年日本において, 国際植生学会が開催されたシンポジウムの内容を見ても明らかである。
 同様に漁業についても200カイリ以来, 沿岸漁業にカを入れながら生産を通じて, 海岸保全に一役かっていると私は考えている。
 今少し専門家の文を引用させていただくと, 「食糧と農業を考える」の著者大島清先生は, その著書の中で,『農林業は, 鉄鉱石, 石炭, 石油など地下資源を原料とする工業とは根本的に性格のちがう産業がある。それは, 太陽の光と熱のエネルギーを土地に受けとめ, 人間労働を投下して食糧を作る。その食糧が人間労働のエネルギー源となる。
 工業が消費するエネルギーとしての石油や石炭は, 一度使えば永久に消えうせる。 もともと石油も石炭も, まだ人類が生まれる数億数十億年前の地球上にふりそそいだ太陽エネルギーが植物に形を変えて地下に蓄蔵されたもので, いわば地中に埋もれた, かつての太陽エネルギーである。
これに対して, 農林業は, 無限の太陽エネルギーを利用して植物と動物を生産する。農業の主要な生産手段である土地は, これを合理的に耕作すれば永久に使用することができる。 5年10年の使用で擦り減ってしまう機械とは, 性質のちがう優れた生産手段である。
 更に農林業は工業と異って自然の生態系の中で生産, 再生産を繰返し, その物質代謝の過程で緑の自然を保存し, 流水を調節し, 空気を浄化する。人類はその生存を保つ上に食糧を必要とするだけでなく, 自然と国土を保つためにも農業と林業を必要とする。これは長い目で見れば, たんに商品交換における経済的合理主義をつらぬき利潤を蓄積すること以上に国民の生命にとって重要な営みである。
 我々の世代は, 1000年, 2000年前の昔から我々に引き継がれてきた遣産である土地と環境を次の世代に引き継ぐ責任がある。 GNPがいかに大きくなっても, この世代の責任を果せなかったら,その経済活動は真に国民の幸福に役立つものとは言えない。たんに食糧の供給を安定的に確保すると言うだけの話なら,それこそ大いに外貨を稼ぎ,アメリカやカナダに倉庫を建てて食糧を備蓄し, 必要に応じて国内に運べば良いかも知れない。しかし, それでは国内の農業は衰滅し,土地は荒廃し,やがて国民生活そのものが破壊されてしまうだろう。』
 と述べている。
 この一文は, 道民にとっても, 警告に値するものではないだそうか。 私の脳裏から常に去り難い一文である。 国土を守り, 国民に食糧を供給しつづけてきた人達は今や高齢化,後継者間題, 花嫁さんの問題, 更には多くの負債を抱えながらも将来に希望をつないで努力している。にもかかわらず辺地においては極端なことを言えば, 生命の保障すら出来ていない所もある。
 昨年10月26日の北海道新聞に, 稚内市の教員の婦人が交通事故に遭って, 頭を強く打ち意識不明の重体であったが, 稚内に脳外科の病院が無いため, 約250km離れた旭川まで車で約3時間20分かかって到着後手術を受けたが亡くなられた。 医者はケースによって様々で, 早く着けば助かると言うものではないが, しかし, 時間は大きな要素と言っており,「もし, この稚内に脳外科の病院があったら, あの時私の妻は助かったかも」と報じられている。
 札幌に住んでいる読者の方がたはどのように受けとめられたであろうか。稚内市においてさえこのような状態である。
 本道における医療施設, 教育施設, 文化施設等々の集積地としての札幌に, 北海道のどこに住んでいようとも楽に日帰りの出来る交通施設を1日も早く実現することこそ, 真の北海道の発展につながるものと確信するものである。

 

4. コミューター航空の可能性
 それでは, 北海道にコミューター航空による空のネットワークは果して可能であろうか。専門家の方からお叱りを受けることを覚悟で, 私の全くの素人的発想ではあるが「イエス」と答えたい。
 先ず, 800mの滑走路の飛行場であれば, 概算で, 新幹線1kmの建設費があれば優に1Oヵ所は建設できると思う。 次に, ターミナルであるが, 現在の空港ビルのようなものでなく, 田舎の駅舎程度で充分である。搭乗券は操縦者が売れば良い。 お客は満席になればお断わりするなど, 現行のようなやり方を徹底的に合理化することが必要である。 千歳〜東京間の距離にオシボリ一本, ジュース一杯のサービスは必要とせず, それに必要な人員等の経費を運賃の方にまわせば良い。
 事故の問題については,統計上からは空が一番少ないと聞いている。
 現代の車社会で, 交通事故死は多いにもかかわらず,マスコミ等は飛行機事故を大々的に取り上げる。これは国民性によるものであろう。しかし, 現に東京調布飛行場と伊豆諸島の新島を結んで, パイロット一人, 乗客9人と言う, 小型機が15年間も無事故で飛んでいる実績もある。飛行機といえば高級な乗物のように考えられるが, コミューターはバスかタクシーに乗ると同様に考えられるような馴れが必要である。現在の空港を利用してネットワークを組み道内を循環させれば客は必ず定着するだろうし, また,鮮度を必要とする高級品の輸送に役立ち, 地方産業の活生化にもつながるものと考えられる。
 次に提言したいのは, コミューターに限って運輸省の行政管轄から外して, 都道府県知事に一切を委ねることにし, 地方自治体はそれぞれの特性を生かして運行,管理など責任をもって行うようにしたらどのようなものかと考える。
 最後に, 最大のネックとなる採算性についてであるが, 千歳〜東京間が運行された最初の頃は, 搭乗者の名前が新聞で報道されたほどであったが, 現在は, 子供が一人で往復している時代である。最初から黒字と言うことにはならないが, 当分の間は道民等しく負担してはどうであろうか。
 なぜ, 私がこのような考え方をするかと言えば, 本道は, 大都市だけが発展すれば良いと言う理論にはならない。我国にとって, 資源並びに大自然に恵まれた唯一の地が北海道であり, その自然環境を保全し, 過疎地域や僻地に居住しながらも緑を守り,食穐を生産しながら国土の荒廃を守っている人々が, 安心して定住し, この美しい北海道を子孫に残してほしいからである。

 

5. 北海道特性の再認識
 明治以来, 国は北海道に投資し続けて今日に及んでいるが, それでは北海道は国に何を環元しているかと言う論もある。だが,戦中,戦後のように,国の一大難時に食糧や石炭を供給して来ている。今後, 日本の防衛問題は別として, 食糧問題について言えば, アフリカこは餓死寸前の人が何千万人も居る現在, 我国の食糧は, ほとんどがアメリカ等からの輸入で賄われている。 ところがアメリカでは表土流出, 塩害等土地の荒廃が起っている(朝日新聞社から出ている「食糧」と言う本の一読をお推めしておく)。だから20年先, 30年先のアメリカ農業は何が起るかわからないと言う人もいる。これらの問題を今日何びとが保障することが出来るであろうか。甚だ疑問である。
 この様なことからしても,今日のような北海道を作り, これを後世に残すことが出来れば立派に還元することになる。
 北海道はやはり我国の食糧並びに保養基地として,大自然と調和した国土として,保存して行くべきであることを国民に知ってもらい, これに従事する人達の居住環境に対する深い理解を得ることが出来れば、 国民に一部負担してもらうことも可能ではなかろうか。
 昨年国際シンポジウムがあり,「21世紀へのメッセージ,子供たちに何を伝えるのか」の基調報告の中で, 作家の司馬遼大郎さんは,
 『20世紀後半の文明は地球という生物が生存する天体を生存の条件の限界などおかまいなしに食い続けようという方向に進んでいる。我々は子孫に何を残すか, 答えは簡単である。 地球, 人間の生命が維持できてそれぞれが快適にその生涯を終え得る生態系を持った地球を次代に残すと言うことである。』
と述っていることは銘記すべき一文ではないだろうか。
 以上, コミューター航空の必要性を一次産業の面からとらえて述べたが, この素人の私見について会員の皆様の御批判, 御意見をいただくと共にコミューター航空に対する論議の発端の一助となれば幸いである。

(傍点は筆者)

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