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交通の発展段階としてのコミューター

伊 藤  昌 勝

北海道都市計画諌交通計画係長


 

 交通機関の発展は, 目的地に一刻も早く到達したいという, 人間の尽きることの無い欲望に, その時々の技術力, 経済力で対応して未た歴史である。コミューター航空は, このような交通機関の発展段階の一つとして, その延長線上に促えられる新しい交通システムである。以下にこの観点から浅薄な分析を加えてみたい。

1. いつでも, どこへでも, 即ぐに
 マンガの主人公ドラエモンは, 未来の世界から来て, 現代に住み付いたロボットである。彼の胸の四次元ポケットには, 未来の世界の色々な道具が蔵われている。この道具の一つが“どこでもドア”である。“どこでもドア”はそのドアを開けると, そこは, 好きな人の部屋であろうと, アフリカの草原であろうと自分の行きたい場所なのである。つまり, 敷居を跨ぎさえすれば, 行きたい場所へ, 何時でも, 直ちに行ける誠に便利な道具である。
 交通は人, 物の移動であり,その窮極は,“いつでも, どこへでも, 即ぐに, 行けることであり, 物を必要なだけ運べる事”である。“どこでもドア”は出発地と目的地を四次元的に接着し, ドアの開閉によって, 人, 物の移動をはかる, この交通の極限を実現した道具である。
 このドアの無い我々の世界では, 広大な, あるいは, 峻険な空間を何らかの手段によって克服しない限り目的地に到達できない。この行為が交通であり,このためには, 所定の時間が必要である。森羅万象は時間とともに変化するもので, 源義経の首実験のように, 交通に長時間を要すると, 義経の首を確認するという肝心の目的が達成困難になってしまうこともある。
 三次元世界にあって, 空間をあるがままに連絡する我々の交通機関の第1の使命は, 交通時間をいかに短縮するかにある。
 いずれにしても, 交通機関は, いつでも (任意性), どこへでも(機動性), 必要なだけ(輸送力), 直ちに(高速性)到達できることを窮極として, 絶えずイノベーションして行くことを求められているのである。
 

2. 通路, 搬具, 動力
 交通機関がその機能を発揮するためには, 出発点と目的地を結ぶ通路があること, 人や物を運ぶ搬具及びこれを動かす動力を備えていることを基本にしている。
 そもそも交通は, 植物のように一地点に留まっては生きて行けない人類が, 生きる糧を求めて動き回ったり, 居住地を定めて諸物を集散した事に始まっている。原始的な交通は, 人間自身が足で歩き, 自分の肩に荷を負い, あるいは簡単な搬具を利用するなどして行われていたであろう。恐らく, 地上の樹木, 地物, 湖沼などが通行の障害になったであろうから, このときの唯一にして最大の交通機関は安定的に確保された通路ではなかったかと思われる。
 人や物の移動には, 重力による静止慣性からの解放が必要である。 また, より多くの物をより遠くに運ぶためには, 人間の筋力に換る大きなカが必要である。いま, 人の筋力に変わるものを動力と考えれば, 水の浮力の利用, すなわち舟の発見は, この意味で時代を画する出来事であったと思われる。また, 舟は, そのものが, 超大型の搬具であるばかりでなく, 何よりも水面という遠大な通路を人類にもたらした点でも, 偉大な交通機関であったと言える。
 人の筋力に換る動力は, このほかにも, コロや車などの転がり摩擦, 風力, 畜力などの利用が考案されている。これに対応して, 通路, すなわち, 水路, 道路などの開削整備が進められ, これがまた搬具の改善を促して行ったと思われる。このようにして, 人類社会は, ある時点からは一応の通路, 搬具, 動力を整え, 速度に限界はあるものの, ほぼ, どこへでも行ける機動力を手中にしたものと想像される。

 

3. 輪送力と速度に革命をもたらした鉄道
 交通機関の革命的な発展は何と言っても, 動力に機械力を導入した事にある。機械力は, その強大な力によって, 交通機関の輸送力を飛躍的に増大させたばかりでなく, 高速性においても, 全く別の世界を実現し, 人々がこれまで知覚し得ていた世界を格段に身近なものにしたのである。
 それを典型的に具現したのが鉄道であり, 鉄道の威力は, これの整備いかんが, 国家の命運を左右するほどであった。
 交通は個々の人や物の動きとして促えると, 本来的には長短大小の不規則なブラウン運動の集合である。これが交通機関に乗ることにより, 限られた通路を通ることから流れとなるのである。この通路上の流れは, ブラウン運動として行われている個々の交通の共通項とみなすことができる。鉄道はこの共通項部分にレールを敷き, 高速で大量のまとめ輸送を行ったのである。これにより, 牛馬の歩みに任せていた長距離輸送は一気に時間短縮を実現したのである。しかし, 鉄道の鉄道たる所は, この専用の通路を使ったまとめ輸送である所であり, また, これが限界でもある。

 

4. 機動性と任意性に優れた自動車
 機械力を利用した地上交通手段としては, 鉄道と同時に自動車が考えられている。 自動車も道路という通路が無ければ機能しない点で他の交通機関と同じである。 ところが, 道路網は人々が歩いて交通していた時代から, 畜力を利用した時代を通じて, 既に生活圏の隅々にまで張り巡らされていたものである。すなわち, 鉄道がレール, 船舶が水面という限られた通路上しな展開できないのに対して, 自動車は, 道路ネットワークを利用して, 人の欲しているその地点まで到達できる, 優れた機動性を初めから備えていたのである。
 また, マイカーに代表されるように, 自動車は, 時刻表に制約されることなく, いつでも交通できる任意性も持っている。
 自動車が鉄道に比肩できる走行距離, 輸送力, 速度を得るまでには, 自動車自身の性能の向上, 道路の改善に相当時間を要するのだが, それらが達成された今日においては, 本来的に備えていた機動性や任意性が, ブラウン運動の集合である交通に誂えた如く適合したのである。今日の鉄道問題は, 全体的な交通機関の発展に伴って, 機動性に劣る鉄道が相対的にカを無くした象徴でもある。

 

5. 地球規模の機動性を持った航空機
 人類は行動不如意のとき, 鳥のように空を飛び, 魚のように水中を泳ぎ, モグラのように土中を突き進む事を考え続けて来た。航空機はこの空を飛び回りたいという夢を実現した交通機関である。
 航空機は, 比べようの無い速度で, それまでの交通機関を凌駕したばかりでなく, 交通機関が宿命的に備えるべきであった通路を必要としないという点でも画期的である。
 航空機の持つ速度は, 行動圏をそれまでには考えられない距離にまで一気に拡大し, 地球上ならどこへでも行けるのだという概念を人々ひ植え付けた。また, 通路を要しない機能は, それまでの交通機関が通路の確保整備のため, 天然の要害と戦わなければならなかったのに対し, 大洋も砂漠も密林も障害とはしなくなった点で, 地球規模の機動性を備えた交通機関である。
 しかし, ミクロな観点からは, 空港という発着施設に路線が固定され, 空港以外の利用ができない点で, 極めて機動性に欠けているとも言える。
 また, 空中を物体が飛翔するため, その分だけ輸送力にも制約があるのも事実である。
 このように, 航空機は, マクロには, すこぶる機動性に富んだものだが, ミクロには機動性に乏しいという交通機関であり, 通路は要しないというものの, 空港に制約されることから, 逆に尾底骨のように退化した通路を備えていると言うこともできる。
 事物はその長所を伸ばし, 欠点を補うように進歩発展する。これまでの航空機の発展もめざましいものがあるが, これから, まだ何が起っても不思議ではないことも事実であろう。

 

6. 新しいイノベーション
 航空機が空港間にしか運行できない点とその空港が都市を離れている点で, 航空輸送は中継輸送にならざるを得ない。従って, より早く到達したという交通の要請に対しては, その中継時間の短縮効果が交通全体の中で相当のウエイトを占めていなければ航空機の利用は成立しない。
 近距離の航空輸送は空港までのアクセス時間に比べ時間短縮効果が小さいため, これまではあまり期待できないものと考えられていた。 しかし, このアクセス時間を縮めること, すなわち, 近距離であっても, 航空機による時間短縮のウエイトを高める方法があれば話は違って来る。
 空港までのアクセス時間を縮めるためには, まず, 空港の利用圏を縮めること,すなわち,空港を密度濃く配置することである。次には、空港をできるだけ市街地近くに設置すること, 第3には, 待ち時間を少くするために所要の運行頻度を確保することである。
 このためには, 簡易な空港で離発着できる低公害型の機材が開発されなければならない。
 小型機であるならば, 軍用機の世界では既に空港を要しない機材も実用化されている。低公害型についても, 相当の研究開発が進んでいる。あとは費用の間題であろう。
 運行頻度については, 航空機の速度とニューメディアのシステム化により, デマンドプレインが考えられる。これは, 定期運行の概念にこだわらず, 需要があれば直ちに急行するシステムである。
 コミューターは, 機動性に難があった鉄道輸送を自動車がカバーして来たように, 大型空港にしか就航できない, 現在の航空機をその機動性で補完する新しいシステムとして促えることができる。そのためには, 自動車の性能の向上と道路整備に時間と費用を費けたように, 機材及び新たな空港と運用システムの開発に努力が払われる必要がある。いずれにしても交通機関に次のイノベーションが始まりつつあることと感じざるを得ない。

 

7. 既存概念の打破
 交通機関の発展努力は,「いつでも, どこへでも, 直ちに, 必要なだけ運べる」ことを遥かな目標とし, 通路を確保し, 搬具を整え, 動力を開発して来た。 現在では, 我々は水陸上は勿論のこと, 空中へも水中へも宇宙空間へさえもその行動圏を拡げている。
 交通は物理質の位置移動であるから, そのために相当量のエネルギーを消費する。 システムとして機能するためには, また, 模大な設備投資も必要である。 しかも, これらの費用は交通する効果に見合うものでなければならない。逆に言うと, 我々の論議の対象はあくまでも社会全体としての採算ラインの内側にあるものである。
 最近, コミューター論議が盛になって来たのは, 小型航空機による小規模近距離輸送が, 費用効果の面で総体収支の採算ラインに入りつつあるからであろう。
 行政改革論議は, あらゆる分野に市揚機構の導入を求めでいる。交通市揚においても, できる限り, 規制の枠を無くすることが, システムのイノベーションを進める上で重要である
 これまでは, 新しい交通機関が出現する度に, 既存機関とのシエア争いを繰り返して来ている。これからは, 鉄鋼会社が炭素繊維を生産する如く, 街の運送屋が全国的な引越企業になった如く, 交通機関の体質, 内容そのものが需要に合わせて自在に変化できる環境を造らなければならない。経営者が問題なしとしているのに, タクシー料金の値上げを強制するなどは, 大方の納得できる事ではない。
 コミューターが市場原理の中で成立する見込があるならば, 少なくとも, 既存概念による規制がこの芽を摘むような事があってはならない。それは, コミューターが, 時をかまわず, 場所をかまわず, 一刻も早く目的地に到達したいという人々の要請を, また一歩進んで実現する交通手段であると確信するからである。

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