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コミューター航空熱に現実的視点を
失 島 征 二
東亜国内航空補袷部整備課長
最近, 日本の各地で,
小型旅客機による定期航空―いわゆるコミューター待望論が高まっていると聞く。
コミューター航空に関心を持っている一人として喜ばしいことである。
しかし, 新聞やテレビの報道を見聞する限り,
これらの待望論がどれだけ現実のものになるか,
心もとない感じがする。
何故心もとないかというと, 現在のコミューター待望論は, 過去の鉄道待望論と同じ次元に立って進めているように見えるからである。 鉄道について言えば, 鉄道の進長は明治以来の政策であったといって良いであろう。従って基本的に鉄道路線が拡大されていく過程において, それがわが町に通るよう陳情すれば良かったことと思う。 この政策は近年に至るまで続けられていたわけで, 鉄建公団が線路をひけば, 国鉄は必ず列車を走らせてくれたのである。このやり方がすでに破綻をきたし, 国鉄の赤字原因の一つともなり, 現在は過疎ローカル線は廃止, または民間へ移管の方向であり, 新幹線の駅ですら, 地元の費用負担がなければ造ってもらえないのが現状である。航空の方も似たような事情にあるといえると思う。
一時の航空高度成長時代はすでに終わりとなり, 空港さえ作れば定期航空路線ができた時代は過ぎ去ったのである。 北九州空港と福井空港から定期便は徹退し, 奄美群島内の定期航空路線はコミューターにとってかわった。 定期航空側も, 不採算路線については休廃止を含めてその対策に懸命である。
現在までに定期航空路線のなかったところ, 空港のなかったところは, たまたま出来なかったのではなく, あの高度成長期においてすら, 空港を造り, 定期便を開設するには充分な航空需要が期待できなかったと考えるのが妥当であろう。 いまコミューターを待望している地域は, まさにこういった高度成長期に取り残されたところが大部分である。
それでは, いまならば空港を造り, 定期便が就航できるような環境がととのったかというと, これも大部分についてはそうとはいえない。こういう環境の中で, ただコミューターが欲しいと言っていれば, 誰かがやってくれるだろうというような過去の鉄道誘致に似たやり方では, 実際にコミューター路線が実現するとは考えられない。コミューター路線として考えられるような区間は, だいたい在来の定期航空会社による運営では採算の取れる見込みがなかったと思われるが, それではコミューターなら出来るかというと, それが必ずしもそうではない。コミューターといえども, 航空機をもって旅客, 貨物を輸送する事業で, 基本的に定期航空会社と何ら変わっているわけではない。ただ, 相当大きな事業となってしまった定期航空事業より, より少い需要に対応できる体制になっている, というだけである。 それとても当然限界がありコミューターならどこでも運営できるという事ではない。
「まず考えるべき採算性」
故に, もしコミューターを必要とするなら, それがまず商業的に採算に乗るかどうか, 仮に自分たちでコミューター会社を始めたとしたら, 企業として成立するかどうか, 検討すべきであろう。そしてもし, 自分たちでコミューター会社を作っても充分採算が取れるという確信が得られるならば, その場合こそ, どこか小型機事業会社が名乗りを上げてくれると思う。 もし, 自分たちでは難しいと判断するなら, 他人にとっても同じことだと理解すべきである。こういう論議なしにコミューターを誘致しようとしてもそれは夢に終る可能性が大きい。
コミューター航空をもし商業的基盤の上に成立させようとした場合, 地元が飛んでもらいたい路線と商業上採算のとれる路線とは全く別の次元であることを充分認識すべきである。
特に昨今のコミューター待望論は僻地・離島こそ, 採算の取り難い区間なのである。 従って, まず, 自分たちのコミューターは商業べースであるのか, 僻地・離島対策に重きをおくのか, はっきりさせなければならない。そして大部分の場合, 僻地・離島対策であるならば, 純粋な商業べースでは成立しえないと考えた方が現実的であろう。
それではどの程度のものならばコミューター会社として成立し得るのか, 日本で最初の本格的コミューター会社である日本エアコミューター(以下JACと呼ぶ) を参考にして, おおよその目安をつけてみよう。
1. 機 材
現行基準では離陸重量5.7トンまでの小型旅客機による運航が認められているが, これを座席数に置き換えると最大19席位まで可能である。 ここではJACの例にならって19席型旅客機を基準とする。勿論もっと小さな飛行機でも良いが, コスト上はより割高になるとみられる。
2. 規 模
規模は最少3機位が良いのではないか。 JACのように2機体制の例もあるが, この場合, 1機が整備を必要とするような時に, 就航便数が半減してしまい, 減便効果が大きく出る恐札がある。
3. 必要需要
19席型旅客機で1日1往復した場合, 年間提供座席数は13,870席となる。しかし, 天候等の理由による欠航もあろうし, 座席利用率も100%というわけにはいかないので70%程度を想定すれば, 年間1万人が目安であろう。平均路線長を100〜150 キロメートル位, 空港の運用時間を8時間とすると, 1日4往復程度が限度である。 従って, 3機保有で年間平均2.5倍稼動とすると, 2.5機×4往復×l万人=10万人までの旅客需要に対応できる。言い換えれば, 全路線で10万人位の需要が必要となるということである。
4. 運 賃
収支といっても, 支出の方は運営形態で大きく変わってくるので,
ここでは大体の運賃水準について述べる。現在の2地点間飛行区間の運賃を大まかにいうと「100キロ区間位までは中型タクシーに2人で乗って料金を折半した位」と言ったら,
大体のイメージがつかめるのではないか。その位の運賃をl0万人に適用すると,
年間8〜10億円位の収入規模になり,
支出はその範囲に収めなければならない。もし地域の事情で,
運賃が水準をもっと低くする必要があればコストダウンに特段の配慮も必要だろうが,
この程度の規模の事業でそれほど余裕があるはずはないので,
地方自治体からの補助金など,
別の手当が要求されよう。以上を一口に言えば, 旅客需要が10万人位見込めて,
中型タクシーの合乗り運賃位の運賃水準が期待できれば, 19席旅客機3機程度のコミューター企業が存立する可能性があるということになる。
飛行機が小さくなったり, 旅客需要がもっと少くなったりすると,
コストは割高になるので運賃をもっと高くするか,
何らかの財政的援助の方策も必要となろう。しかし,
必ずしも上記条件を100%満たしていなくても,
事情によっては十分可能性のあるところもあろう。また,
より具体的な議議論を通じて,
もっと妙案が出てくるかもしれない。そういうことも期待できる。地に足のついたコミューター論議が全国でおこなわれることを期待したい。あなたまかせのコミューター待望論が「自分たちのコミューター論議」に代わった時,
日本にコミューター時代が来るのではないかと思う。第三セクターで出発した三陸鉄道が,
地元や関係者の熱意と努力で,
好成績をあげていると聞く。また奄美では,
日本エアコミューターが頑張っている。「自らの手でコミューター時代を作ろう」との声が全国に高まった時,
日本のコミューター航空の将来は明るい。そう信じている。