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サケマスの道(遡上と降海)

札幌土木現業所
所長 古屋 稔


1、はじめに

道・路(みち)とは、一般に「人や車などが行き来する通路」と。交通とは「人や乗り物が一定の道筋を通って行き来すること(*1)」と記されている。河川の機能には治水、利水、環境があるのだが、通路という意味では舟運の航路として役割があり、魚の通り路としての役割がある。魚にとって河畔林を含めた河道は、森林と海を結ぶ「ふるさとへの道」でもある。今回はサケマスの通路としての河川の役割について、海外の事例などを交えて紹介したい。


2、道の取り組み

(1)北海道の川づくり基本計画
 治水事業における自然環境に対する取り組みは、平成2年に建設省から出された「多自然型川づくり」に関する通達が出て以来、全国で様々な取り組みが行われてきた。北海道においても平成6年に「北海道の川づくり基本計画」が立てられ、成果をあげつつある。その基礎資料となる河川周辺の生物の生息状況については、建設省が進めてきた「水辺の国勢調査」や河川事業などの環境調査によってその種類や分布など多くの情報が分かってきた。
 しかし、道内のほとんどの中小河川での取り組みは、始めてから未だ日が浅く、試行錯誤のなかですすめているのが現状である。
 また、その効果に対し社会批判があり、より効果的でかつ確実に進めるための手法の確立が求められている。そのため現在生物の専門家などを交えた定期的な研究会を進めている。


(2)多くの生物が棲む環境条件
 道が管理している河川には、自然のままに保全しなければならない区域を除き、何らかの治水対策を行わなければならない箇所が未だ数多く残されている。 また、それらの河川は広大で自然豊かな流域を持つ大河川から都市部で宅地化が進んだ小流域の河川まで、様々な河川形態を有し、地形、地質、気象、林相、生物の生態環境、土地利用などそれぞれ特有の自然特性を持っている。
 治水計画の立案に必要な自然環境に対する取り組みを確立するためには、「生物が生息可能な環境条件」を見いだす必要がある。生物によっては長年の変化を追跡するため、長期的な展望に立った調査が必要なものもある。効果的に進めるためには指標となる生物の抽出とその生物の生息に必要な環境条件の定量化が必要であると思われる。定量化によって対策に対する効果の検証も可能になる。


(3)指標生物
 そのような観点で考えた場合、最も適した生物は魚類であろう。魚類は河川環境のなかでは食物連鎖の上位にあり、その生息状況で他の生物の生息の推測が可能になる。そのなかで指標生物として有力と思われる候補に、サクラマスという淡水魚がいる。 サクラマスとはサケ系の魚類で、ヤマベの降海型の魚である。サクラマスは道内のほぼ全域の河川で生息している。サクラマスの河川に生息する環境要素としては、水深、流速、水温、底質、餌料の状況などが考えられ、調査の手法も比較的容易である。 さらにサクラマスは水産資源として古くから生態研究や増殖事業が行われてきており、道内に多くの専門家がいることはこの課題の解決を早めることができる。
 このようなことから、多自然型川づくりの指標生物として注目されるサクラマスを中心に魚に関する取り組みをまとめた。


3、道内の生息魚類とその特徴

(1)遡河性回遊魚
 道内に生息する淡水魚類は約60種で、うち純淡水魚は12種、外来種は約14種といわれている。国内には約150種から170種の淡水魚が生息するといわれ、純淡水魚が少ないことや北方域にみられる魚類の生息特性を示すことが北海道の特徴として上げられる。さらに特筆すべきはサケマスのような降海、遡河する魚類(遡河性回遊魚)が多いということである。
 このように、本州の河川においては暖かい水を好む温水系の魚が多いのに対して、北海道では冷水を好むサケマスなどの魚類が多いため、河川の流水の水温状況が魚類の生息環境上の重要な要素となっている。

(2)水産資源の保護
 またこれらの遡河性回遊魚は我が国の重要な水産資源であるため、古くから積極的な増殖事業が行われてきた。それと併せて保護水面を設定して、河川における水産資源の保護対策を厳重に行ってきた。(図−1 *2)その理由は、これらの魚類がその生活史のなかで、最も大切と思われる産卵、幼稚魚期を河川で過ごすためである。魚種によって異なるが、道内の河川にはまだ河口から上流まで天然の産卵床が数多く存在する。産卵床の周辺の河川環境の把握と対策は大変重要な課題である。


4、サクラマスの特性

(1)サクラマスの生活史
(降海型)
 サクラマスには降海型と淡水型のものがあり、一般に降海したものをサクラマス、降海前の稚魚期か河川に残留した淡水型のものをヤマベと呼んでいる。
 降海型の日本での分布は北海道全域と本州では太平洋側で千葉県、日本海側は山口県以北にみられ、その中心は北海道の日本海側で、東北・北陸の日本海側がそれに次ぐ。

(スモルト化)
 ヤマベの生息場所は河川勾配が比較的急で、大きな転石や砂利の瀬と淵が連なるところである。主な食物は落下あるいは流下する陸生及び水生の昆虫などである。ふ化後1年半から2年半でおおよそ10〜20cmとなり、降海するものはスモルト化(銀毛)し、4〜6月に海へ降りる。1年を海で過ごし、大型のものは60cm以上になり、産卵のため4〜6月に遡上して、9〜10月に産卵する。(図−2)同じサケ科のサケやカラフトマスは少なくとも1年間以上河川で過ごすことになり、河川に依存する度合いが高い。


(2)河川の利用
(流出と魚の移動)
 図−2は北海道の日本海側の河川の1年間の流出状況を示す代表的な例である。この図は遡河回遊魚の移動と河川の流出状況の関連を説明しやすいように表したものである。河川水温が外気温の影響をうけ変化していることや、魚の移動に影響していることが分かる。
 3月の末から6月いっぱいは融雪水で、河川は豊富な流況を呈する。道内の河川では一般的にこの融雪期に1年間の総流出量の約4割が流れる。この融雪期の水を利用して、サケやマスの稚魚は降海し、サクラマスの親魚が海から河川に戻り、下中流まで遡上する。
 7月から8月は夏の渇水期になり、魚類にとっては移動の困難な時期になるが、成長期を河川で生息する魚にとっては活動の最盛期となる。餌となる昆虫類の流下が最も多い季節であるからである。
 秋に入ると台風などの雨の影響で川には比較的水量が多くなる。産卵のため河川に遡上する魚類が多くなるのはこの流量が多くなる時期である。河川には魚類が移動するに充分な水深が保たれ、遡河性の魚類のほとんどがこれらの増水に誘発されて行動を起こすといわれている。

(分布と生息標高)
 道内河川に生息する魚類の特性の1つに、低水温を好む冷水性の魚類が多いことは前述した。河川の水温が標高に関連がある。
 オショロコマの生息域は、太平洋側が標高1,000mに達し、また日本海側では700mと高い位置にまで生息している。それに対しオホーツク海側では低く、知床半島では海岸に近く平地に生息している。
 サクラマスが多く生息する標高はおおよそ300m位までで、アメマスはオショロコマとサクラマスの中間に位置し、3魚種の棲み分けをしている。
 ウグイは上流まで生息域がのび、サクラマスやアメマスの領域にまで入り込んでいることが調べられている。
 ハナカジカの地域分布は道内全域にわたり、河川の河口から標高900mまでかなり広範囲に分布している。

(遡上と降下条件)
 一般に魚類は降海時以外の淡水生活時期には川の流れに逆らう抗流性を示し、遡上時は「正」の抗流性に、降海時には逆に「負」の抗流性に変わるといわれ、河川水の流れが降海移動の要因になると考えられている。久保(*5)によれば、スモルト化が進むにつれ「負」の抗流性は次第に強まり、次第に積極的な降海移動を行うようになるが、降河中に極端に流速の遅い場所があれば、下流への移動行動が弱まる可能性を指摘している。降海型のサクラマスの親から生まれた幼魚の中からも降海するものと河川に残留するものとが生じ、北にいくほど降海型の割合が高く、また雄よりも雌のほうが高いことが知られている。


5、道内の遡上対策
(1)魚の上りやすい川づくり
 道内の河川には、産卵のため海から河川に上る遡河性の魚類が多く生息していることから、河川に設ける横断工作物には、それらの魚類の遡上を助ける方策として古くから魚道の設置が行われてきた。近年ではサクラマスの河川における自然状態での再生産を促すことを目的に、主としてサケマスの資源保護河川を中心に整備がすすめられてきた。
 しかし、最近の多自然型川づくりの考え方が浸透し、新設する横断工作物のほとんどに魚道が設置されるようになった。設置されていない既設の工作物にも「魚の上りやすい川づくり」をキャッチフレーズにした施策で改築が着実に進み、完成した魚道数は約900箇所以上になる。


(2)魚道のタイプ
(階段式魚道)
 道内で設置されている魚道型式は階段式のものが圧倒的に多い。その遡上実績を把握するため魚道の効果調査が数多く行われ、多くの魚類の遡上が確認されている。魚道設置の効果は充分にある。他のタイプのバーチカルスロット式やデニール式の採用は極めて少ない。最近、魚種によっては階段式の魚道の遡上が難しく、視覚方向に障害物のないバーチカルスロット式の魚道に上ることが分かってきた。山間部の狭い谷や沢など設置場所が狭く、落差の高い箇所においてはラセン式(円形、角形を含む)階段式魚道が設置されている。

(呼び水)
 階段式魚道の設計では従来遡上する魚種によって1プール構造、大きさ2越流水深、段差3隔壁の形式、構造に力点がおかれていた。最近では魚の遡上生態の調査がすすみ、魚が魚道の入り口までスムーズに到達できるための平面位置や呼び水などの検討、あらゆる魚種の遡上が可能となる全段面など魚道形式に関する議論が多くなった。
 道内河川のサクラマスの生息調査で1〜2m程度落差のある横断構造物の上流において、サクラマスが遡上して再生産を行っていることが分かった。この構造物の水叩きは水深が1m以上あり、充分なプールの水深と大きさがあれば融雪時に遡上することが可能であることを示している。


(3)魚道の設計
(遊泳速度)
 魚道の設計は魚の遡上時の抗流性の特性を利用したものである。
 魚の遊泳は回遊としての移動(遡河、降河)、採餌活動、休息や避難などの移動など種々の目的で行われる。このなかで河川を遡上する際の魚の泳力と流水の速度とは相対関係をもっており、様々な研究がなされている。遊泳力を表す指標として「遊泳速度」が用いられており、長時間続けて出すことができる速度を巡行速度(2〜4*B.Lcm/s)、瞬間的にだけ出すことのできる最大の速度を突進速度(10*B.Lcm/s)(*6)としている。
 魚道の設計は、越流部の河川水の落下速度と魚の遊泳速度の関係が用いられる。


6、アメリカの降下対策
 アメリカ合衆国では遡河性回遊魚に対する様々な保護対策があり、北米東部と北米西部の河川における取り組みが広く知られている。これらの地域では北海道が課題としている同じ魚種である北方系のサケマス系の魚類を対象としている。その手法の1部を紹介する。

(1)北米東部の事例
1)コネチカット川(Connecticut River)
(アメリカン・シャド)
 コネチカット川は北東部のニューヨークとボストンの中間に位置して、最上流のバーモント州からニューハンプシャー州、マサチューセッツ州、コネチカット州を経て、大西洋に注ぐ大河川である。ニューイングランド地方では最も働きのある河川といわれ、200年以上もの間、この地方の食料の供給源として、また輸送、交易、レクレーションの場を供給してきた。
 コネチカット川には、ホリホークダムのほかターナーズホールズなど4ダムに魚道が設置されている。魚道の対象魚は主にアトランティックサーモンとシャドとなっているが他にチョウザメ、バス、ウナギ類なども上る。かつて植民地時代には年間6百万尾のシャドが戻ってきたといわれているが、この地域の工業化などにより、激減した。サケとシャドを呼び戻す努力は19世紀半ばから行われてきた。1965年に遡河性魚類保護法(The Anadromous Fish Conservation Act)が成立したあと、連邦および州の魚類、野生生物局、国立海洋漁業局、環境保護団体、電力会社などの関係機関によって種々の対策が行われてきた。


2)ホリオークダム(Holyoku Dam)
(エレベータ式魚道)
 ホリオークダム(H=10m、L=300m G)は現在発電用に使われているが、かつてはパルプと織物業で栄えたオリオーク市への工業用水の供給のために造られた。このダムの魚道は1940年代に階段式のものがつくられたが、1段の落差が高く遡上効果が思わしくないため、廃止された。現在使われている魚道は右岸側にあるエレベータ式魚道で、年間百万尾のアメリカンシャドとアトランティックサーモンがエレベータで上げられる。この型式は世界で初めて採用されたものである。またこのダムの遡上装置の成功例は全米のお手本となり、北西部の太平洋サケの保護対策に関する種々の研究の発端にもなった。
 遡上のシステムは、エレベータ内に納められたバケットに集まった魚を、ホイストでバケットごと引き上げ、ダム湖につながる水路に放流するものである。

3)注目すべき種々の工夫
(迷入防止)
 遡上する魚類が発電放流の出口などと魚類の入り口を誤らないように、呼び水を放流している。河川内の流速とは異なる流れを人工的に作り、魚道の入り口への迷入の防止策を行うもので、日本でも最近検討されるようになった。

(移動式スクリーン)
 エレベータ内には流速がやや遅くなり、集合した魚をバケットにどのように入れるかが課題となったが、その対策として移動式のスクリーンで機械的に押し込む方式を採用していた。

(越流部の降下対策)
 遡上用の魚道はこれまで充分の経験と実績で技術的に確立されているが、現在はふ化後の稚魚や成魚の降下を助ける設備について種々の検討が行われている。ホリホークダムではタービンへの取水口前のスクリーンで迷入防止を行い、洪水吐きと舟通し用の運河を利用して降下させている。
 洪水吐きからの降下については、実態調査の結果、魚の習性による課題が解明された。「魚は身体の中心部にある測線で流速を感じながら遡上や降下活動を行う。降下時には、頭を上流に向け流れに逆らわない姿勢をとる。滝や洪水吐きの越流部のように急激な流速変化のあるところは、危険を感じて上流へ戻る習性がある、(John G.Williams *7)」ことが分かってきた。越流部流速のほとんどない湖内から越流部への魚の移動がスムーズに行われない。

(移動式洪水吐)
 その対策として洪水吐きの流入部の漸次流速が変化するように、ベルマウス状に断面を変えた移動式の洪水吐を考案した。遡上期にはクレーンで持ち上げ、洪水吐き本体にかぶせて魚の降下を助けることに成功した。非遡上期にはダムの付近の広場に仮置きしている。


(2)北米西部の事例
1)コロンビア川(Columbia River)
(Juveileの降海)
 アメリカ北西部のアイダホ州、ワシントン州、オレゴン州に流れているコロンビア川には、支川のスネーク川も含めて、米国陸軍工兵隊(USCE)が管理する8箇所の水力発電用のダムが設置されている。これらのダムは高さは30mクラスではあるが、下流のポートランド市付近から上流まで連続して設置されており、太平洋サケとスチールヘッドの遡上やJuveileの海への降下移動を阻害する主要なものとされてきた。ダムや貯水池などの阻害により、生ずる魚資源の減少は、商業、レクレーション、インデアンの漁業に大きく影響してきた。このためUSCEは魚資源を守るため、魚道設置や人工孵化場などの種々の対策をすすめている。
 現在はふ化後の稚魚や成魚の降下を助ける設備(降下バイパス)の様々な検討がなされ、特に現在はJuvenileが水力発電所の水車に吸い込まれるのを防ぐための対策を積極的に進めている。

2)コロンビア川の魚道
(アイスハーバー型)
 太平洋サケとマス類が保護対象となっている北米西部の魚道は、種々の魚梯(fish laddars)が設置され、階段式、バーチカルスロット型、デニール方、アイスハーバー型が主となっている。コロンビア川の8ダムの魚道型式はいずれも階段式でバーチカルスロット式との組み合わせである。バーチカルスロット型は上流が水位変化してもプール内の流況が変わらないために使われている。遡上用魚道設置は既に終わっており、技術的には確立されている。

3)コロンビア川の降下対策
(トラベリング・スクリーン)
 コロンビア川の降下魚対策は、主として太平洋サケとスチールヘッドのJuvenileと呼ばれる稚魚の海への降下を助けるプロジェクト事業である。
 最も効果を上げている対策がトラベリングスクリーンを用いたシステムである。降下移動中の魚の垂直分布が浅い層にあることを利用して、水力発電機のタービンへの流入路の途中にスクリーンを出し、魚を分離させてバイパスへ誘導する方法である。各ダムで一時的に集積されたJuvenileは魚の輸送専門の船かトラックによって最下流のボネビールダムの下流まで輸送される。(図−6)

(降下バイパス)
 この方法を採用したことにより、従来1ダムを、通過する場合の損失が5〜15%であったのに対し設置後は2%に減少した。魚の輸送量は多いときで年間2千万尾を越える。各ダムのバイパスシステムの延長は長く、途中魚種の選別システムやフィッシュカウンター、測定、試験、マーキングなどを行うための分岐点ゲートなどの関門があり、降下魚類は厳しい試練の旅を余儀なくされる。


7、アルゼンチンのフィッシュ・トラップ
 ’95にJICAのアルゼンチン事務所がすすめるネウケン州の淡水魚養殖センターの技術協力で南米のアルゼンチンを訪問した。千歳川のサケマスの増殖事業に使われているインデアン水車と同型の施設(Fish Trap)を計画するためである。

(1)ラカール湖
 アルゼンチンのパタゴニア地方のラニン国立公園内に、アンデス山脈の麓にある湖に面したサンマルチン・デ・ロスアンデスという美しい町がある。その町中を流れるポカウージョ川は、アンデス山脈の雪解け水を集め、サンマルチンの市街地の西側に面するララカール湖に注いでいる。ラカール湖には11種の淡水魚が生息している。そのうち100年前に北半球から移植されて育ったサケ科魚類のニジマス、ブラウントラウト、アトランティックサーモンなどが、秋から冬にかけての増水期に産卵のためポカウージョ川に遡上する。ラカール湖の下流はチリとの国境で太平洋に向かう途中に滝があり、海からの遡上はそこで止まる。このため、ラカール湖の魚類は全て陸封されたものである。

(2)捕獲水車(Fish Trap)の必要性
(スポーツ・フィッシング)
 これらの淡水魚は湖でのスポーツフィッシングの対象魚として、アルゼンチン内外から注目され、いまではサンマルチン市の重要な観光資源となっている。
 しかしながら、最近ポカウージョ川に産卵のため遡上するニジマスなどの親魚の密漁が増大し、ラカール湖のトラウト類の魚数が激減している。さらに近年のサンマルチン市の急激な人口増は様々な都市問題を引き起こし、湖に生息する魚類にも次第に影響が出始めた。
 このためネウケン州とサンマルチンの市当局などの関係機関や団体がこれらのトラウト類の増殖と国立公園内の密漁防止のための対策をすすめることになり、ポカウージョ川の河口付近に遡上魚の捕獲用の施設を計画することになったものである。

(ニジマスの捕獲・放流)
 親魚の捕獲装置は百年の歴史を持つ千歳市の水車と同じ方式を採用することになった。このプロジェクトはその後継続され、日本からはJICAの協力で、道から派遣された後任の河川技術者が設計、現地指導を行い、昨年春(2000.5)に完成した。約2千尾のブラウントラウトとニジマスの捕獲に成功した。現地のプロジェクトによってふ化増殖と放流事業が進んでいる。またこの水車施設に水中の観察窓が設置され、千歳川のインデアン水車と同様重要な観光資源となっている。

(3)水車の水理条件
 千歳川は支笏湖から流出する河川である。湖からの出口に発電用のダムがあり、流出量がコントロールされている。そのためサケの遡上期のチトセトラップ付近の流量はほぼ一定で河川水位の変動はほとんどない。8月から12月までの捕獲期間の水位は約60cmに保たれている。
 水車の直径は3mであるが、材料が木製であることから、水車の水深が1.5m以上になると流れの強さに耐えられなくなり、流される可能性がある。このため、ポカウージョ川は河川の水位変動が著しく、かつ流速が速く、水車への水のコントロールを考えなければならない。このため、Canal方式を採用することになった。しかし、トラップ計画の土地の制約があり、水車が回転するため必要な流速をとれる河川勾配の確保が最大の課題であった。

(4)ニジマスの遡上習性
 チトセトラップの原型は産卵のため遡上する「正の抗流性」という魚の特性を利用して考え出されたものである。サンマルチンのフィッシュトラップの計画においても捕獲の水理条件として、流速と水深を対象としている。
 チトセトラップの捕獲魚は年間40万尾以上になるが、ほとんどがシロサケである。今回の計画の対象となるニジマスやブラウントラウトとは生態特性が異なる。ラカール湖のマスは、産卵後も再び遡上し産卵する。またラカール湖のフィッシングはリリース方式になっているため、人間との接触の経験による野生魚にはない警戒心がある。実際に水車での捕獲が可能であるかが課題であったが、無事成功した。


8、おわりに


引用文献)

(*1)「辞林21」三省堂
(*2)水産資源保護条例 北海道水産部
(*3)中尾勝也 ’95「サクラマスの生息条件」北海道の土木
(*4)井上聡 ’97「魚類生息環境の課題」北海道の土木
(*5)久保達郎 ’80「北海道さけますふ化場報告」
(*6)菊池健三 魚道の設計指針
(*7)John G.Williams 北西水産科学センターU.S.A ’95国際魚道会議報告

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