RETURN

21世紀の北海道の交通に携わるものとして

北海道大学大学院工学研究科
助手 岸 邦宏

1.プロジェクトに夢をのせて

私が小学生だった頃、担任の先生が朝から教室のテレビをつけて、クラスのみんなが授業そっちのけで特別番組を見た。青函トンネルの先進導坑の貫通式だった。当時の中曽根首相が発破のボタンを押して、トンネルが貫通した。その頃には青函トンネルの経緯などはよくわからず、海底をトンネルが通るということに驚くばかりであったが、みんなで歓声を上げたのを覚えている。これで新幹線ができるとか、本州と陸続きになったとか、北海道の交通の将来の夢を語る時間になり、交通計画に興味を持つようになったきっかけであった。

その後もリニアモーターカーができるとか、いろいろな夢のある話を聞くことがあったが、21世紀を迎えた今、これらの計画は思うように進んでいない。実際に研究するようになって、理想と現実の違いを実感している。青函トンネルでさえもお荷物だとか今からでもフタをしろとかいう人まで出てきている。これに対して私たちの研究室では、青函トンネルが特に物流において果たしている役割を明らかにした1)

時代の求めるニーズや、人々の価値観も多様化し、一つのプロジェクトに対して賛否両論であるのは当然である。しかし、公共事業そのものを否定する流れの中で、最初からスケールの小さいものしか言えないようになってはほしくない。この部分がまずいからこのプロジェクトはできない、というのではなくて、ここをこうすればこのプロジェクトもできる、という議論の仕方が重要である。「何もしないのが一番いい」というのでは寂しすぎる。

昔の自分がそうであったように、今の小学生が北海道の交通体系の将来に夢を持てるような指針を示すことが、私たちの役目でもあると考える。


2.夢物語が現実に

一方で、昔は夢のような世界だったものが、現在実用化の段階まできているのがITSであろう。2001年1月に国土交通省土木研究所でAHS(走行支援システム)の体験乗車をする機会をいただいた2)。カーブまたは障害物が前方にあれば画面と音声で教えてくれ、危険な状況で自動停止する。見通しの悪いところや霧で視界が悪いときもセンサーで判断する。交差点での右折時にも対向車が隠れて見えなくても教えてくれる。または車線を逸脱しても修正する・・・ドラえもんに出てくる、「どこでもドア」とまで行かなくても、便利さを追求すれば技術的には可能になる。ITSはこれまでも話を伺ったり、学会で研究発表を聞いていたりしてはいたが、実際に体験乗車して、特に冬期の吹雪で視界が悪いときに有効であると強く感じた。

これらが実用化されるときに、コストの問題または自動車交通の利便性の追求が時代に逆行している、などの理由で否定されてしまうのであろうか。

北海道は、特に地方部で地理的条件から自家用車に頼らざるを得ない現状もある。そのような地域でこそ、安全に移動できるためにもITSの重要度は高い。そして、観光における道内の移動も、大量輸送機関からレンタカーのような自由に移動できる交通手段の割合が高まっている。冬にスキー場に向かうまでに吹雪で危険な状況などにITSは有効である。最初は地域のために導入するITSも、安全に移動できる北海道観光としてアピールすることができれば、北海道がITSのモデル先進地域となりうると考える。

 

3.研究活動の理論と実際

私は研究を職業とするようになって2年が過ぎた。データの提供や意識調査など、多くの方々に様々な形でご協力をいただいて、研究を進めることができている。研究を進めるときに、その結果がどのような形で社会に役立つか、ということが私は最も重要であると考えている。

私が属する分野の論文集をみても、理論構築が主眼になっておりモデルをつくるために実際とはかけ離れた仮定をもうけて、数式を出して理論ではこうなる(はずだ)、という論文が多くなっている。

もちろん研究として理論構築はとても重要である。ただ、それが何のためにつくる理論なのか、自己満足になっていないか、を常に意識しながら研究を進めたい。

そのような中で現在、北海道交通研究会の若手勉強会に参加させていただいている。産官学の若手が集まり、北海道の交通の将来を議論しており、私自身非常に有意義なものとなっている。実際に直面する問題を議論する中で、研究のテーマがそこにはたくさん見つけられる。また、実際に実務に携わっている方の自分にはない視点も非常に刺激を受ける。自分のテーマを発表し意見をもらうことで、研究の方向性が間違っていないか、社会に貢献しうるものになるか、理論と実際をつなぐ場として非常にありがたいものとなっている。

考えてみると自分が実際に働くのは、あと約30年、21世紀の約3分の1であり、21世紀の北海道の交通の方向性が決まる大事な時期でもあろう。若手勉強会においても長期的視野に立って、北海道の交通についていろいろな夢をどのようにして実現していくか議論して行ければと思っている。


参考文献

  1. 岸邦宏、前田友章、日野智、佐藤馨一: 青函トンネルプロジェクトの費用便益分析、土木計画学研究・講演集23(1)、pp99-102、2000
  2. 国土交通省土木研究所ホームページ URL http://www.pwri.go.jp/jindex.htm


RETURN