日本における北海道地域の役割を見据えて
−公共土木工事は「大地」の活用術−
(財)北海道銀行中小企業人材育成基金
理事 竹 川 勝 雄
(札幌市在住)
公共工事のなかでも土木工事の特徴は「大地を社会、公共の生活に恒久的に生かせるよう構築する」ことであると考えます。
したがって、地域の産業構造と深く係わった事業分野があるし、大地の形状、土質、水質、動植物等の環境に配慮した施行技術と保全技術が存在しなければなりません。しかも、大地は無機的というより、有機的で時々刻々変化するものであります。土木技術は、完成工事そのものの機能維持とともに、少なくとも周辺の土質や水質の半永久的な活用を追求したものでなければなりません。
このことは、新たな工事に伴うだけではなく、災害の復旧工事にしても単なる修復に止まらず、大地の恒久的活用という配慮が必要です。正しく土木工事の究極は大地を保全する高度な実現技術の固まりであります。
従来の公共工事、なかんずく土木工事は、このように大変高度な領域に属する事業でありながら、何故か国民の多くから十分な支持を得ていないように思われます。
この背景には、いくつかの原因があるようです。一つには、異分野の技術と様々な開発技術を複合化することに積極的ではなかった、若しくは必要性がなかったというこれまでの仕組みにあるようです。
又、企業が開発した技術が実用化されるケースも極めて稀です。実用化されずらい理由が全国的に使用できるか否かということの検討時間というなら、その理由は意味がありません。大地は様々で地域によって違うのですから、なにも施行方法を全国一律にする必要はないのです。
全国一律という画一的なやり方は、単的に言えば効率的で一見公平ではあるが、試行錯誤や地域の実情に合わせた技術開発がなされないため、個別企業の技術レベルアップのスピードは遅くなります。
それでは、これからの公共土木工事に不可欠なことは何か。それは大地を活用するという面から「環境に軸足を置いて地域からの支援を受ける」進め方であります。
このような観点から、これからの北海道地域の公共土木工事について話を進めたいと考えます。
ここで重要なことは、公共土木工事の特徴を踏まえて、日本における北海道地域の役割について改めて考えてみる、ということであります。
役割という点では風土も大きな要素です。これからは「日本の中で北海道地域が引受ける最も効果的な分野」は何かを、キィワードにしては如何でしょう。「会社のために」という言葉が少々合わなくなってきたのと同様に、「人さまの為になってこそわが身が生きる」という言葉を考えるべきであります。「何々県のために」を連発する他府県の姿を見て、同じ日本国民として違和感があるのではないかということでもあります。
そしてもう一つ、全国都府県からそれぞれの文化を持ち寄った北海道地域の「文化」の特徴は「あるべき姿を求めようとする姿勢」の強さ、「タテマエを大切にする社会/理想的に物事を進めようとする社会」であって、欲しいのであります。
北海道地域の歴史はアメリカ合衆国に似た面を持っています。ヨーロッパ各地から人々はアメリカ大陸に渡りました。アメリカ合衆国は建国200
数年といいますが、その歴史の源は多様で、文化は全ヨーロッパから引き継いで発展させたものであり、古い歴史から学んだ「合理的で理想を追求するタテマエ」の社会でもあります。
物事を変革する積極性は、このような「タテマエの社会」があってこそ実現し易いのです。だからこそ、世界各国から優秀な人材が公正な評価や変化を求めてアメリカへと集まるのだと考えられます。「人が集まる風土」ここに経済発展の秘密が有りそうです。
これら二つの事柄は、地域の発展に欠かせない重要な風土と考えられます。
さて、北海道地域が緊急にPRして盛んにすべき、公共土木の領域とその進め方について提案します。
1.環境保全公共土木領域
水質、土壌、動植物、自然景観等の大地を恒久的に生かせるよう開発し保全する領域。現実には、水質や土壌、動植物の問題に関して国公立の研究機関において抜本的な研究が進んでおり、又、民間レベルの多様な分野で小規模ながら研究が進み、実用化への本格的な取り組みが希望されているようであります。しかし、このような研究成果が環境保全として総合的に実用化される状況にはなっていないというのが現実であります。
したがって、これまでの「土木工事」が、「環境保全公共土木工事」として積極的にこれら研究成果を取り込んで実用化することが必要であります。
この領域で他に先駆けて進めるべき分野としては「第1次産業の産業廃棄物処理」であり、復旧への技術レベルを高める「災害時対応」であります。
特に第1次産業の廃棄物(生物に由来するもの)の処理については、ゴミ捨て場の設置という「古い土木工事」の感覚ではなく「環境保全公共土木工事」の技術として、大地の持つ自然治癒力を活用する技術(バイオテクノロジー等)やその応用技術(環境関連機器工業や有機化学工業等の関連産業が有する技術)を取り込み、広い北海道の大地を、将来的にも肥沃で国土保全が十分な地域へと変えていくものとして捉え、北海道地域が全国の中心になって積極的に取り組むことが重要であります。
2.観光立地対応公共土木領域
文明の発達とともに、大自然に溶け込む観光が展開されています。北海道地域には開発いかんではスイス等世界に比肩する雄大な観光立地の可能性が存在します。
観光立地対応公共土木とは、地域産業との関連を重視したコンセプトの下に『環境保全公共土木をベースに、大自然の中に「安全性と利便性という日常性」を実現する土木』と定義できます。
本来、大自然と人間は共存するとともに敵対しています。噴火や気候の激変、蛇も熊も、一般的に素手では立ち向かえるものではありません。道に迷えば生命の危険に曝されます。大自然に素手に近い状態で立ち向かうのが冒険なら、観光は大自然を箱庭の如く安全に、且つ近代的利便性の備えをして、素手で立ち向かえるようにしたものであります。
したがって、観光立地対応土木の領域は、環境と地域産業への配慮に加えて、大自然を満喫しながらの「利便性と安全性」を提供する複雑なマネジメントが要求されます。
この観点で北海道の開発状況を点検すると、まだ道半ばではないでしょうか。
これまで北海道に投入された資金を無駄にしないためには、是非とも、もう一歩、次のステージの整備に進まねばなりません。
3.食料基地対応公共土木領域
北海道が日本の食料基地として注目されて既に久しい。しかし、それに相応しい歩みは何等見られません。
食料基地としての必要条件は「安全で安定した安価な食料供給」であります。
このために整備すべきことは多岐に亘ります。例えば、原料供給段階から最終消費までの一連の衛生管理面の整備、食品原料供給者の競争力強化(半加工、貯蔵能力の向上)、物流の強化(貯蔵施設や輸送路の確立と、設置の分散化等による防災面でのリスク管理)、水質や土壌の保全、食品製造に係わって発生する廃棄物の処理(環境保全公共土木領域の整備)等々であります。
さて、“食料基地対応公共土木”は環境保全公共土木をベースに、「安全で安定した安価な食料供給に資する物流」を実現する土木と定義したいと思います。
例として、北海道の冷涼で湿度の低い気象条件と広い大地(山腹等)を利用した大規模な貯蔵施設の実現と、併せて全国各地へ安全に安価にスピーディに輸送できる輸送路の確立であります。
上記、大規模な貯蔵設備と輸送路の確立は他の地域と比較して優位性はありますが、絶対的な優位性があるとは思えません。一刻も早く実態面で行動を起こすことが肝要です。
又、全国民にとって議論の経過が納得のできる透明な進め方を実行し、北海道を全国における食料基地として磐石な整備を図るべきであります。
食料安保と言われるように防災、防衛上のリスク管理に配慮して、道内各地に分散配置される大規模な貯蔵施設は、日本全土の「安全で安定した安価な食料供給」に大いに貢献する筈であります。
4.実現への方法論
以上に述べた、これからの公共土木工事を実現するためには方法論が必要です。
先ず第一に業界が変わらねばなりません。
具体的には土木工事を幹として他産業の技術を取り入れ複合化して完成させる、言い換えると「総合土木工事」に変容していく必要があります。
「総合土木工事」は、大地に関係する最先端の技術を駆使した施工・保全工事の遂行を可能にするための、関連産業(バイオテクノロジー、環境機械や化学を活用した業界等)や大学、公的研究機関との人的ネットワークを構築し、それをマネジメントすることが要求されます。
さらに現実的なこととして、国、ある程度広域的に地方自治体、公共土木工事業者、大学や関係研究機関が参集する「場」を作り、上記三つの領域についてコンセプト、技術面、予算等に英知を結集することが重要であります。
こういった場や機会を通して開発動向、予算規模、要求される技術水準や種類等について参加者が「こうあるべき論」に立って、事業の将来像を明確に認識し、実現に必要な最新の技術や方策を検討することにより、「地域から支援され」、且つ大いに利用される公共事業が完成すると信じます。
最後に、今次、国の縦割り行政の弊害が言われていますが、元々専門的かつ高度な国家行政を目指そうとすれば、組織が縦割りになるのは至極当然のことであります。問題なのは、縦割りをネットワーク化して有機的に使える組織(人)が育っていない(育つ環境がなかった)ことであります。
方法論の一つでもある「場」や機会の運営にも関係しますが、地方自治体がリーダーシツプを発揮して、関係当事者に呼びかける役割が今後益々大きくなると考えられます。
切に期待したいものです。