積雪寒冷地域における地下通路整備の意義と効果
-札幌駅前地下通路に関する市民アンケート調査結果に関する考察-
北海道学園大学大学院工学研究科 都市・地域計画研究室 鈴木 聡士
札幌市 企画整備局 総合交通対策部 交通計画課 天野 周治
1.はじめに
北海道は積雪寒冷地域である。
我々の先人は、このような厳しい気候風土を不断の努力と様々なテクノロジーを以て克服し、豊かで暮らしやすい都市を創造してきた。しかして札幌は、積雪寒冷地域に存在する世界の大都市と比べても、誇ることができる素晴らしい都市となった。そして、現代に生きる我々は、先人が創造したこの誇るべき都市を、さらに素晴らしいものに発展させ、子孫に受け継がせる義務がある。
しかし現在、この札幌においても中心市街地衰退が問題となっている。これは勿論、全国を覆う社会・経済環境等の変化がメインファクターではあるが、札幌においては上記のような気候特性も大きなファクターの一つであると考えられる。すなわち、冬期にはその積雪寒冷の厳しさから、人々の活動は低下し、都心の活気も比例して減退する。
これを根本的に解決するため、札幌市は第4次札幌市長期総合計画において、「魅力的で活力ある都心の整備」を目的の一つと据え、かつ上述の背景から「地上と地下における歩行者動線のネットワークの形成」をその具体策として掲げている。
さて、現在の札幌都心部における商業立地および地下通路ネットワークを概観すれば、地下街などにより地下の歩行空間が設置されてはいるが、札幌駅周辺ゾーンと大通駅周辺ゾーンがそれぞれ独立しているため、連続したネットワークになっておらず、そのシナジー効果が完全に発揮されていない現状にある。
このような中で、札幌駅南口広場地下街「アピア」が平成11年にリニューアルオープンし、北1条地下駐車場が平成13年春に、札幌駅南口総合開発が平成15年春にそれぞれ完成する予定となっていることから、これらの計画と連携した地下通路整備の計画を検討する必要がある。すなわち、札幌駅前通地下通路の必要性が必然的に高まってきたのである。これは、四季を通じて天候に左右されず誰もが安心・安全・快適に移動できる歩行空間を提供するとともに、2つの独立したゾーンを連続した地下ネットワークで連結させ、そのシナジー効果を完全に発揮させて、中心市街地全体の魅力度を向上させる狙いがある。
札幌駅前通地下通路の計画区間は,官公庁や金融機関などが数多く立地している「都心業務中心ゾーン」に位置しており、区間は地下鉄南北線さっぽろ駅から大通駅(北3条〜大通)、延長は465m(道道区間315m、国道区間150m)である(図−1、2参照)。
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| 図−1 札幌駅前通地下通路のイメージ |
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| 図−2 札幌駅前通地下通路計画区間 |
この事業は、都心再活性化の鍵を握る起死回生のプロジェクトとして期待される。
2.市民アンケート調査の実施概要
近年、PI(Public Involvement:住民参加)による都市・地域および交通計画の重要性が高まっている。このようなことから、札幌駅前通地下通路は極めて公共性の高い施設であり、計画・設計の際には市民の意向を十分に取り入れる必要がある。また、この地下通路は国の補助などを含め、総額で約200億円程度となることが想定されている。そのようなことからも、整備後の都心再活性化の効果等について市民にアンケートを実施し、数量的・客観的に分析することが必要となる。
以上の背景から、北海学園大学都市・地域計画研究室と札幌市企画調整局総合交通対策部交通計画課との共同企画により、「札幌駅前通地下通路に関するアンケート調査」を実施した。なお、アンケートの質問項目概要は以下のとおりである。
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さらに、アンケートの実施日は平成12年11月21日(火)〜1月16日(火)、被験者は無作為系統抽出法により札幌市民2000人を選出した。回収票数は810(平成13年1月16日現在)で回答率40.5%であった。ここで、アンケートの被験者属性を図−3に示す。
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| 図−3 アンケートの被験者属性 | |
3.アンケート調査の分析結果
問1の質問項目は、「都心(まち)にはどの程度行かれますか?該当するものすべてに○をつけてください。また、1(仕事)または2(娯楽・買物)に○をつけた方は( )内の該当する頻度にも○をつけてください。」である。まず、来訪目的に関する回答結果を図−4に示す。
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図−4 都心への来訪目的 |
図−4より、「娯楽や買い物に行く」が80.4%と最も多く、次いで「仕事に行く」が36.3%となっている。また、「仕事や買い物を含めほとんど行かない」は7.7%となっている。
さらに、図−5に来訪頻度を示す。
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| 図−5 都心への目的別来訪頻度 | |
図−5より、「仕事に行く」と回答した人の都心来訪頻度は、「週5日以上」が54.8%と最も多く、半数以上となっており、次いで「週2〜4回」21.6%、「月1、2回」15.1%の順に多かった。また、「娯楽・買い物に行く」と回答した人の都心来訪頻度は、「月1、2回」が40.6%と最も多く、次いで「週1回」20.8%、「年に数回」20.8%の順に多かった。
2)地下通路整備を仮定した場合の利用頻度
問2の質問項目は、「あなたは、都心(まち)に来たとき、札幌駅前通地下通路があるとどの程度利用しますか。1つ選んで○をつけてください。」である。図−6にその結果を示す。
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| 図−6 地下通路利用頻度 |
図−6から、「四季を通じてよく利用すると思う」が50.5%と最も多く、半数以上となっており、次いで「天候によって利用すると思う」32.1%となっている。また、「めったに利用しないと思う」8.0%、「全く利用しないと思う」2.7%と合わせて10.7%の人はほとんど利用しないと回答している。
この結果から「天候によって利用すると思う」という回答が3割近くを占めている。このことは積雪寒冷地である札幌において、天候に左右されない安全な歩行空間である地下通路は、冬期に多くの人々が利用すると考えられる。また、高齢者や障害者に対しては、特に安全な地下通路の存在が重要になると考えられる。さらに、最も割合が高かった「四季を通じて利用すると思う」という回答(50.5%)からも、信号や車の影響を受けない地下通路の利便性は高いということがいえる。
3)地下通路の施設づくりへの要望問3の質問項目は、「札幌駅前通地下通路を整備するとした場合、あなたはどのような施設づくりを望みますか。2つまで選んで○をつけてください。」である。図−7にその結果を示す。
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| 図−7 地下通路の施設づくりへの要望 |
図−7より、「自然光が入るなど明るい地下通路とする」が39.6%と最も多く、次いで「植物や噴水などうるおいある地下通路とする」32.9%、「カフェテラスなどのくつろげるスペースを設ける」31.7%、「ベンチなどを置いた休憩スペースを設ける」30.2%となっており、これらは何れも概ね30%強程度となっている。
以上より、札幌市民は地下通路施設づくりに対して、空間的要因(明るい・うるおいのある等)の重要度を最重視し、さらに休憩機能的要因(くつろげる・休憩スペース等)の要因を重視していることがわかった。このことから、これらの要因を満足させる施設計画・設計を行えば、市民に親しまれる地下通路になることが予想される。なお、今後はクロス集計などを行い、年齢属性などに着目して分析・考察する必要がある。
4)地下通路整備後の都心買物行動の変化地下通路整備による買物行動の変化について、以下のようなアンケートを実施した。
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問4 都心(まち)で買物など(飲食、娯楽、レジャー、イベント等を含む)をする際、以下に示す1〜3のような場合に、あなたはどこで買物をしますか?夏の場合と冬の場合それぞれで、最も当てはまる番号を1つ( )の中にご記入下さい。
1.現在、都心部で買い物などをする場合(現在) |
このアンケートに対する回答の集計結果を図−8、9に示す。
図−8(無積雪期)から次のことが考察される。現在では「大通駅のみ」が42.2%と最も高く、次いで「札幌駅、大通駅両方」39.7%、「札幌駅のみ」11.2%の順に多かった。しかし、南口が開発されれば、「大通駅のみ」が減少し、逆に「札幌駅のみ」「札幌駅、大通駅両方」の割合が増加して、「札幌駅、大通駅両方」の割合が43.4%と最も多くなる。更に札幌駅〜大通駅間の地下通路が整備されれば、「札幌駅、大通駅両方」の割合は83.7%と現在の2倍程度も増加している。
また、図−9(積雪期)から次のことが考察される。現在では「大通駅のみ」が47.9%と最も多く、次いで「札幌駅のみ」21.2%、「札幌駅、大通駅両方」21.0%と、夏に比べ「札幌駅、大通駅両方」へ足を運ぶ人の割合が約半分程度に減少している。また、南口開発のみでは、現在と比べ「札幌駅、大通駅両方」へ足を運ぶ人の割合はほとんど変化が起こらない(21.5%)。しかしながら、札幌駅〜大通駅間の地下通路が整備されれば、「札幌駅、大通駅両方」の割合が83.4%と4倍程度となっており、夏と同様な割合にまで増加している。
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| 図−8 夏の場合(無積雪期)における買物行動の変化 |
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| 図−9 冬の場合(積雪期)における買物行動の変化 |
以上のことから、蓋然的ではあるが、地下通路が整備されると、「札幌駅、大通駅両方」で買物をする人数が非常に増加することから、都心部における消費者の買物行動は激変することが予想される。さらに、地下通路設置によって、大通−札幌駅間の歩行者数は飛躍的に増加することが予想されるのである。このことから、札幌、大通駅周辺のみの活性化に加え、札幌−大通間(北3条〜大通)の札幌駅前通周辺地上部分における商業等活性化方策としては、地下通路と沿線のビルとの接続をスムースにすることが重要であり、それが実現されれば、季節を問わず多くの通行客を確保することが可能となり、地下通路設置前と比べても、より多くの入り込み客数が見込まれることは容易に考察される。これが実現されれば、都心は「札幌、大通駅周辺のみ」ではなく、その全体が活性化すると考えられるのである。
さらに、無積雪期と積雪期を比較すれば、積雪期における回遊効果が無積雪期に比べ約2倍となる。すなわち、積雪寒冷地における地下通路の整備効果は、その他の地域に比べて格段に高いことが推察されるのである。
また、これらの結果は既存研究1)の分析結果とも殆ど一致する。
4.おわりに
札幌都心部の再整備が進められている今、この札幌駅前通地下通路をこれらの計画とシンクロナイズさせて整備すれば、我々の先人が残してくれたこの素晴らしい札幌をより良い街にできるのではなかろうか。
我々は、子孫にどのような札幌を残すのか。今、決断の時である。
1)鈴木聡士:センシャス・ポテンシャルモデルによる中心市街地再開発事業の評価に関する研究、第35回日本都市計画学会学術研究論文集、pp163〜168,2000.11