ぐるぐる通信2-2
[聖地を守り暮らす人達]
札幌 みかみめぐる
[ニ-ガン(根神)の茂子さん]
猿田彦大神巡行祭の時に親しくなった玉城安子さんに招かれて、私と連れ合いと友人の三人は昨年の七月、沖縄本島北西部の大宜味村を訪れた。
大宜味村は本島北部に広がるヤンバル(原生林)の入り口に位置し、ブナガヤという妖怪・妖精伝説が今も実際に息づき、長寿の村としても有名だ。この大宜味村の根路銘(ねろめ)という辺りのカミンチュ(神人)の安子さんは、私達に大城茂子さんというおばあさんを紹介してくれた。茂子さんは大宜味村の謝名城(じゃなぐすく)という辺りのカミンチュの方で、村のニ-ガン(根神・発祥の家)の家系である。昭和十九年に祖母様の後を継いでニ-ガンになって以来五十四年間、七十七歳になられる今日まで茂子さんは村の祭祀の中心を担われてきた。細っそりとした体格の茂子さんは、威厳と品格を漂わせながらも少女のような笑い顔とお茶目な話し方をする方で、年齢よりもずうっと若々しくチャ-ミングなおばあさんである。
[大宜味村の聖地巡拝]
カミンチュのお二人は、それぞれがお守りをされている聖地に私達を案内し、そこでウムイ(神歌)を唄ってくださると言い出した。神域に特に男性がお邪魔して、もしカミンチュのお二人に災いが生じては申し訳ないからと言う私達に、茂子さんも安子さんも「神事のない時にカミンチュがお連れするのですから大丈夫。それにやはり、その場にいかなければ神への思いをお聞かせできにくいら。」とにこにこ微笑む。私達は実は内心畏れ多くてエライコッチャ!と思いつつ、操り人形のようにお二人に導かれて聖地の山へと向かった。
まずは安子さんのお守りされている聖地へと歩き始めると、先頭を行く安子さんが「薮の中にはハブがいるから気をつけてね。私はよくハブに会うのよ。ハブは先頭の人は襲わないってさぁ。」と振り返りながら朗らかに言う。安子さんの話し方がおかしいのでつい笑いながらも、よそ者としてはハブという言葉にけっこうびびっていた。
小川に沿った細い山道は、カミンチュが小川で禊ぎをしたあと拝所へと向かう道で、祭祀の時に安子さんが上がって行く以外普段村人が歩いたりはしないそうだ。
やがてけっこう急勾配な所にいくつか聖岩がそびえ、ここで祈るのだと教えられた。「あの上のほうから、ありがたい装束をまとったあなたがたお二人が、手に三方を持ち穀物を撒きながら降りて来られたのをはっきりと覚えているの。だから去年セ-ファウタキでお会いした時にはもうびっくりして。」と安子さんが私の連れ合いと友人に向かって懐かしそうに言った。それは安子さんが見た夢の話なのだが、予知夢も含め大事なことの多くを夢に見る安子さんにとっては、夢もまたある種の現実のようだった。茂子さんにも「ものすごく大変なご縁があるということですよ。」と言われた二人は、これまた懐かしそうに聖岩のかなたを見上げていた。
[ウムイ・神々との交歓]
今度は茂子さんのお守りしている聖地へと向かう途中、謝名城の茂子さんの自宅で私達はニ-ガンに代々伝わる宝物を見せていただいた。それは立派な玉飾りと刀と鏡で、まるで三種の神器そのものだった。
茂子さんのお守りしている聖地の山道は安子さんの時とは違い、道幅もありいかにもハブがいそうな茂みとは違う分、深い山へと通じていく感じがした。山道を登ってすぐに火の神を祭る拝所があり祈る。そこからまた登っていくと道端に龍の子どものような形のビジル(霊石)があり、竜宮からの使者として今も村人に信仰されているそうだ。それにしても私達にいろいろと解説しながらの茂子さんの足どりの達者なのには驚かされた。聖地は地の気が良いせいで力がみなぎるらしい。
セミ時雨の山道は、やがてものすごく古い佇まいのアサギ(神を勧請して祭祀をおこなう場所)へと続いていた。そこはウフグシクヌウタキ(大城の御嶽)のアサギという拝所で、茂子さん達カミンチュの方達はアサギの中のそれぞれ所定の場所にすわり、祭祀をとりおこなうのだそうだ。私達も畏れながらアサギの中にお邪魔させていただいたが、四方に壁のない柱と屋根だけの佇まいにもかかわらず、全く違う時空間と霊気に目眩がして長くはそこにいられない。 アサギの外で茂子さんはゆったりと踊りながらウムイを唄った。神との交わりを喜び唄うウムイは、それはそれは優雅で尊く、そこにいさせていただいていることがありがたくて涙が出た。
山を降りる道々、茂子さんと安子さんのウムイの歌声は再び静かに流れた。帰り下る眼下には村が広がり、その向こうには海が青々と輝いている。そこにはふる里の原風景があり、何にもまして天と地、神と人を結ぶ糸が幾重にも見える気がした。聖地を守り暮らす人がいる村に来れて嬉しいと思うと共に、こんな村で暮らせる人達を羨ましいとしみじみそう思った。(雑誌『気の森』21号より)
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