666+666+666=1998

                7才の娘が読んでいる『コジコジ』という漫画が最近気に入っている。『ちびまる子ちゃん』のさくらももこの作品である。メルヘンの世界を舞台にしてはいるが中身はおかしなキャラクター満載のナンセンス物で、作者本人は「馬鹿メルヘン」と呼んでいて、楽しく、時に感動で涙もでる。
 コジコジは子供であまり物を知らない宇宙生命体という設定。知的にスジの通った言動をとらないので周りは迷惑がったりするのだが、宇宙生命体としてはスジが通っていて、ときおり本質をさりげなくつく。存在としては「バカボンのパパ」に近いかもしれないが、時代背景の違いと作者が母であるところですごく「今風」になっており、面白いことと深いことをうまく両立させている。これをスピリチュアル・ナンセンス漫画と呼びたいくらいで、このスタンスに共感できるのだ。

 さて、来る1998年はどんな年になるのだろうか。あまり明るい期待は持てないというのが大方の予想だが、ここにキリスト教の悪魔の数字というものがある。それは「666」という数字だそうで、1998はその3倍数にあたる。で、これまで西暦の666年と1332年に大きな災いが起きており、1998年はもっとも悪魔の力が強くなるというのだ。異常気象や経済危機などの世情と一致しているので説得力も感じるのだが、宗教ではこういう説を「脅し」の材料にすることがよくあり、好きなたぐいの話ではない。
 たしかにいいときばかりではないのだから宇宙の動きを知ることは重要で、東洋の「易」もそのようにして生まれてきたのだが「予言」で「恐怖」を煽るのは人を支配したいという別の欲望から来るものだろう。ここは脅しに乗らず、できればかつての私たちの祖先がそうであったように「理屈抜き」の「直感」で乗り切りたいところだ。理屈は知らなくても「わかっている」人は地球上にはまだまだいるし。

 このキリスト教の悪魔の数字のことを教えてくれたのは宗教学者の鎌田東二氏である。彼はシュタイナーの研究会にも入っているのでそこからの情報だろう。霊的な世界を知的に探求したルドルフ・シュタイナーは数秘学でこの悪魔の数字を説明したらしい。
 そして鎌田氏はこれにどう立ち向かうのかというと、1998年8月8日に世界平和と非暴力と生命への畏敬を願い求めて超宗教の祈りの場を震災の地神戸で持とうとしている。どうして8月8日かというと「8」が並ぶ日だから「888」で「666」的傾向を解きほぐし祓い浄めようというのだ。「888」は「八八八」で末広がりの数字だし、「ハハハ」は朗らかな笑いの文字だし、「8」は横にすれば無限、永遠の記号でもあるという理由で。
 駄ジャレに言霊の力を認める鎌田氏ならではの発想だが、これはけっこうコジコジ的だと思う。キリスト教の悪魔の数字を受けて、ゴロあわせで「末広がりと笑いを伴う永遠の生命につながっていくために」教派、宗派を越えた祈りの場をつくろうというのだから。
 コジコジの世界にも96年ぶりに悪魔がやってきてメルヘンの世界の住人たちは慌てるが、コジコジは悪魔がどういうものかを気にせず一緒に遊ぼうとして、やる気のそがれた悪魔は帰ってしまう。  思想、信条や正義感や使命感、ヒューマニズムなど依ってたつところはいろいろあるが硬直した「マジメさ」だけで祈っても神様は喜ばない。神様も面白いことが好きなのだ。ものすごく真剣な中に笑いの要素を入れるというのは鎌田氏の得意とするところで、ここにもスピリチュアル・ナンセンス的なものを見ることが出来る。コジつけかもしれないが「これでいいのだ」と思う。(三上敏視)

(ミニコミ『工房便り』1998年1月号より転載)

CONTACT
MICABOX
BACK TO OLD HOME BACK TO NEW TOP