フィンランドのこと

 最近細野さん周辺でスオミ-フィンランドが話題になっているので、少し紹介しましょう。実は僕、フィンランドには91年、92年と夏に二回行っています。テキストだけですけど、僕の知っているフィンランドを紹介しましょう。
 フィンランドは北欧の国ですが隣のスウェーデンやノルウェーとはちょっと人種、言葉が違うようで、バルト三国の一つエストニアと共に、アジアに近いとも言われています。氷河に削られた後の土地で高い山がなく、湖(氷食湖)がいっぱいあります。山が低いのと同じように湖もそんなに深くありません。
 国土は日本より少し狭いくらいのところに北海道の人口くらいの人しか住んでいないので町と町の間の景色は森と湖が延々と続きます。変化や刺激が少ないせいか人々は穏やかで親切。特に日露戦争でロシアが日本の相手をしているスキに独立したので日本人には好意を持っているようです。その時の元帥だった東郷平八郎にちなんだ「トウゴウビール」というビールもあったくらい。
 国の北側三分の一は北極圏に入っていて、夏は日が沈まない白夜になります。南端の首都、ヘルシンキでも夏の夜はうっすら明るいです。冬はその反対ですが一日中真っ暗ということではありません。そして冬はオーロラが見られます。クリスマスは北欧の冬至の祭にキリストの誕生日を相乗りさせた祭だそうです。夏至の祭も盛んです。
 その北極圏はノルウェー、スウェーデン、ロシアの領土も含めてラップランドと呼ばれサーメという先住民が住んでいます。彼らは主にトナカイを飼って生活をしていますが、魚の漁もするしアイヌと同じような、北方圏に共通の「熊送り」の文化もあります。ほとんど全ての人がある種のシャーマンだったと言われるくらい天地とのつながりが深い人たちで、宇宙観や時間の概念、言霊など、独特の文化を持っています。それは地球上で普遍的なものももちろんあり、僕自身はアボリジニとこのサーメの文化に何か似たものを感じます。そしてシャーマンはシャーマンドラムを持っています。今ではおみやげで売っていますがかつては神聖なものでした。ちなみにこのドラムは楕円形で、樺太アイヌやインディアンのドラムのように東に行くほど正円になっていくらしい。
 彼らには「ヨイク」というチャントがあって、独特の歌唱法を持っています。夏には山にトナカイを放すのですが自分のトナカイだけにわかるヨイクというのもあるらしい。ヨイクの歌い手の中からコンテンポラリー音楽との融合を目指すアーティストも出ていますが、一連のネイティブブームの中でサンプリングされて一方的に利用されているケースも見られます。
 トナカイは苔を食べます。このあたりの森には北海道のような笹が生えておらず、苔やベリーなどの下草で覆われています。だからふかふかしていて歩きやすくなっています。
 フィンランドには南の人の北上によるラップランドへの侵略という歴史がありましたが、他の先住民と比べると権利の回復は進んでいるようです。今ではスノーモービルで雪原を走り回っているし。
 サーメの映画では「ホワイトウィザード(PATH FINDER)」という作品があり、ビデオが出ているので興味ある人は探してみてください。戦いものの娯楽映画ですが舞台は昔のラップランドで、PATH FINDERとはシャーマンのことです。
 南の人は林業と牧畜がメインです。林業は循環型になっているのでカーテンまで木だったりしてバンバン木を使い、木から作った紙もふんだんにあります。木を切った後の森には白樺を植えます。白樺の成長は早く、土地の力を回復させるので「大地の母」と呼ばれています。白樺を切った後に針葉樹を植えるのでフィンランドを走っていると「白樺の苗木から白樺」「松の苗木から松」のいろいろな段階の森が見られます。もともと植生が多様ではなかったようだけど、もっと他の木が欲しいと日本人としては感じてしまいます。
 フィンランドというとサウナ。サウナ用の石の入ったストーブで薪を燃やして石を熱し、水をかけて蒸気を出すのが基本で、専用の小屋があります。小屋は床など結構すき間だらけで、小さな子供は下にいれば熱くありません。熱いのが好きな人は上に上がりますが、それでも90度くらい。日本のサウナのほとんどは熱すぎます。ビヒタという白樺の葉の束を水につけ、熱した石の上で蒸したあと体を叩きます。マッサージの効果と白樺の葉の薬効があるようで、白樺はこの他にも灰やタールなどが薬として使われています。都市の家やアパートでは電気サウナで、会社のオフィスにもあり、サウナ会議も珍しくありません。考えてみると湯船に入れた水を湧かすのと比べると水の量も燃料も少なくて多くの人が汗を流せるサウナは北方の優れた知恵ですね。だからフィンランドには風呂はほとんどないですが、フィンランド人がいったん温泉を知ろうものなら「サウナより好き」というひとが多いのも事実です。
 体が熱くなったら湖にザブンという光景は夏によく見られます。たくさんある湖の湖畔にはケサメッキと呼ばれる「夏小屋」がこれまたたくさんあって、普通の人々は長い夏休みをここで過ごします。金持ちは南欧へ行くらしいですが。ボート遊びをしているとあちこちから裸の人が走り出てきて飛び込んだりしています。裸の女性もちょっと前を隠しながらで、日本人などいる時は水着を着たりタオルを巻いたりするみたいですが基本的に現地の人だけの時は「混浴」が当たり前のようです。性的な雰囲気にはならないそうで、えらいもんです。やっぱ慣れでしょうかね。ちなみに水に入らなくて外気に当たるだけでもいいんです。冬に雪の中を転げ回る人もいますけど。
 夏小屋だけでなく、自宅にももちろんサウナがあり、田舎を走っているとたまにある人家に国旗が掲げてあったら「サウナ入れます」という印らしい。知らない人でも誰でもokなんだそうです。僕の知る限りですがフィンランドの文化は性善説で成り立っている感じでした。マーケットでもばら売りの野菜を自分で秤に載せ、値段シールをプリントアウトして袋に貼ります。いくらでもズルが出来そうなのに。
 あまりにも治安が良くて安心しすぎて二回目のヘルシンキのホテルのロビーで帰国前日、パスポートや航空券の入ったバッグを置き引きされたんだけど、それは南米から入った窃盗グループの仕業でした。それでも大使館や航空会社のスタッフは時間外でも親切に対応してくれて予定通り帰れました。その時案内してくれたフィンランド人の友人が「ホテルのセキュリティーにも責任があるからまけてくれへんか」と言ったら部屋代半額にしてくれました。パラセホテルという高級ホテルがバカンスシーズンは元々半額だったんだけど、そのまた半額で泊めてくれたことになります。だいたいホテルも鉄道もバカンスシーズンは安いんです。人がたくさん使うから。人がたくさん使う繁忙期に高くする日本とは根本的に発想が違いますね。夜行列車に乗ったんだけど、その時知り合った車掌さんからは今でも手紙が来ます。
 食べ物はホテルのものか自炊がほとんどだったので一般家庭はよくわかりませんが、シンプルであることは確かです。ホテルではパンにチーズやソーセージ、キュウリやトマトの薄切りを乗せるオープンサンドがメインのバイキングがほとんどで、夜にスープが加わるくらい。どこへ行ってもこれが基本でした。レストランはいろいろありますが、あまり刺激的なものは苦手みたい。でもコーヒーは好きです。かなりの消費量だそうです。トナカイの肉は血合いみたいであまり好みではなかった。サーモンはさすがに美味いし、自分で釣った魚はまた格別。なんせ広い湖にボートを出して釣りをしているのが自分一人だけ、みたいな時もあり、資源に対する罪悪感がほとんどない。これを味わってからは日本では釣りが出来なくなりました。サーモンは釣れなかったけどね。
 さて、音楽ですが田舎の人はロシア民謡みたいな歌謡曲が大好きです。スリーリズムにアコーディオンにシンガー、というような編成でマイナーが多い日本人にはなじみのある音楽です。郊外の町にいた時「踊りに行こう」と言われて行った店がこの音楽でした。しかも生演奏。ワルツが多く、みんなペアになって踊っていました。伝統楽器としてはカンテレという琴の一種があり、文学では「カレワラ」という叙事詩があります。クラシックではシベリウスがいました。
 若者は何が好きかというと、フィンランド人は英語をちゃんと話せるように教育されているので日本以上に英米の音楽がメインですが、僕の行った頃はヘビメタが一番人気のようでした。なんとなくヘビメタってバイキングっぽいからフィンランド人の気質とは違うと思うんだけど。
 今フィンランドに行ってエレクトロニカがどれだけ主流なのかはわからないけど、白夜の反対の暗い冬を長く過ごさなければならない人の作る音楽はどこかストイックで、それを表現するのにエレクトロニカはぴったりなのかもしれない。
(03/01/26)(三上敏視)

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