「おひらきまつり2003」報告

 今年の伊勢・猿田彦神社「おひらきまつり」は10月12日、13日の二日間。去年に続いて比較的小さな規模で行われた。小さな規模というのはゲストのライブがないということである。これまでりんけんバンドやサンディー、古謝美佐子、海外からもリアム・オ'メンリーなど豪華ゲストが出ていて、これで無料なんだから毎年続けるのは大変なことである。
 それでも二年前から国内の神楽を招待することが定着して、隠岐島前神楽、土佐本川神楽に続き今年は宮崎・米良地方の銀鏡神楽が来ることになった。地元の西都市の協力も得てのことだがこれも簡単なことではない。
 さて、毎年のように前日に伊勢に入るモンゴロイドユニットだが今年は細野さんがいない。この日は名古屋でスケッチショウの仕事が入ってしまったのだ。いつもこの日の夜に2〜3時間のリハ&打ち合わせをして本番を迎えるモンゴロイドユニットの奉納演奏だが、即興とはいえこの時に細野さんがいないと準備が出来ない。
 それと、いつも我々の奉納演奏の後の野焼きの火入れ式で演奏する岡野弘幹グループも今年は出演できないということで、いつものモンゴロイドユニットの時間はMICABOX中心でやり、岡野君たちがやっていた火入れ式に細野さんと雲龍さん中心で即興の奉納演奏をするというプランが細野さんから示されたのだ。だから今年のチラシのクレジットは「細野晴臣&環太平洋モンゴロイドユニットfeat.MICABOX」という表現になった。
 二つの演奏をはっきりと分けなければならないのでMICABOXはアルバムに入る楽曲の演奏をすることになったが、前日2時間のリハだけで40分の生演奏のステージをやるのはこれまた大変なこと、というか無理である。しかし雲龍、皆川厚一、鳥居誠、浜口茂外也のモンゴロイドユニットのメンバーは毎年「即興演奏」をしに伊勢に来るのだから演奏は例年と同じ「即興」でいってもらえばいい。高遠さんと二人だけでライブをする時に使うカラオケを事前にメンバーに聞いておいてもらい、リハではみんなの出す音を聞いてからカラオケのトラックを編集することにした。だからDTMソフトをそのまま使うことになる。たくさんのプラグインを使ったりしないのでこれまでもトラブルなくライブをやってきたが、このリハの時に一度突然プレイバックが止まってしまった。一同心配な顔になったが、フリーズしたわけではないので「なんとかなるだろう、止まったらやり直せばいいし」のケセラセラで済ますことにする。カットアウトの曲のタイミングがわかりにくいということで、きっかけのフレーズを切ったり貼ったり、リハの作業の半分は編集作業になった。これをリハの後でMDなりCDにセーブして本番で流せばいいのだが細野さんが当日のサウンドチェックの時からの参加なので、まだカラオケの編集は終わらないのだ。
 時間がないとはいえ、生演奏だけの曲もやりたいので新曲「思い草」をカラオケを使わずにやることにして、この曲を含め七曲をひととおり確認してリハは終了。「思い草」はアルバムの曲に挿入する予定だった「五木の子守歌」がレコ倫にひっかかるということで、急きょ高遠さんに歌詞を書いてもらって差し替えた曲だ。
 リハが終わってホテルに帰る。細野さんがいないということは東君もいないので、したがって例年のホテルの部屋を使った「カフェ東」もない。結局モツ (浜口茂外也) さんの部屋で、皆川さん、鳥居さんと僕の飲酒派オヤジたちが集まって飲み会をする。「バーもつ」である。何を話したのかあまり覚えていないのはやはり翌日のステージを任されたプレッシャーがあるのかもしれない。
 13日の当日午前中は、これまた例年通り伊勢神宮の内宮参拝だ。二三日前の予報では晴れだったのに急に天気がくずれてきて小雨が降っている。去年も大雨で拝殿での演奏だったから今年は外でやりたいものである。6人で内宮へ行ったが三連休の中日ということですごい人出で、今までで一番混雑していた。毎年人が増えている気もするし、静かな参拝をするには早朝か夕方しかなさそうになってきた。
 参拝の後はこれまた恒例、おかげ横町で「地ビール」である。モツさんも、皆川さんも鳥居さんも、もちろん僕も大絶賛の「伊勢地ビールの生」。今回は桃の入ったビールもあった。モツさんはこれを楽しみに来ているといってもいいほどだ。イイダコの串焼きをつまみにランチ前のビールはたまらない。
 猿田彦神社に戻り、細野さんたちと合流。やっぱり前日に名古屋でライブがあっては元気はいまいち。でも慣れた場所なのでリラックスはしているようだ。
 気になる雨は小雨だがやまない。予報では曇りのち雨だから早く降り出せば夜にはあがるという期待をするが、宮司さんも今年は外でやりたがっているようだし、お客さんには申し訳ないけれど。大雨にならなければ降っていても雨天決行にしようという雰囲気になっていた。
 今年のステージは銀鏡神楽の舞台を基本としたのでいつもより幅が狭く奥行きが長い。だから我々は前の方に固まってのセッティングとなる。なんだか窮屈だけどみんなが近くにいると妙に安心感がある。そして雨対策で「猿田彦神社」と書かれたテントの下にいるため「雨宿りライブ」のようだ。何年か前もテントの下でやったがあの時はたしかテントはふたつだった。
 細野さんが入ってのリハはここだけ。ひととおり一回ずつ曲をやったらもう4時を過ぎる。本番は5時だ。即興が主体だがこれでやれてしまうんだからこのメンバーはすごい。雨はときおり本降りになる。あわただしく控え室に戻り、雨が上がることを祈りつつ着替えなどする。ワインの一口でも飲みたいところだが今回は「バンマス」なので自重。差し入れがあったら飲んじゃったかもしれないけれど。
 さていよいよ本番。雨は小休止の様子。ステージ脇のテントで待機するが、濡れたテントの屋根にくっついた木の葉が美しく、デジカメで撮ったりする。余裕なんだかなんだか…。毎年のことだがお客さんは御神田(おみた)を挟んではるか彼方にいる。完全な奉納演奏ならこの雰囲気がいいのだが今回は楽曲演奏だ。お客さんはそんなことご存じないからいつものように静かに音が出るのを待っている。そして一曲目。静かな曲だったせいもあるが、終わってもシーンとしている。お客さんとの関係をどう作っていくか、あせった。一気にキンチョー、飲んどきゃ良かった。しどろもどろで今回はいつもと様子が違うということを説明して次の曲へ。少しずつお客さんも今回の様子を飲み込んでくれたようで御神田越しに「場」が出来ていった。アウトドアでしかも遠くにお客さんがいると拍手の音も小さく聞こえる。いつもと同じなんだけど「バンマス」だと気になってしまうものなんだなあ。あとから聞いたら観客席ではそれなりにいい雰囲気で盛り上がっていたとか。良かった良かった。
 カラオケが止まってしまうこともなく、七曲を無事に演奏する。途中で細野さんにアポなしコメントを求めたら「こういう新しい音は戸惑うかもしれないけど、聞いていればわかってくるから」というようなことを言ってくれて嬉しかった。MICABOXのアルバムの音は細野さんが仕上げてくれることになっているが、実際に演奏に参加してくれたことで、その作業もやりやすくなったのではと思う。
 控え室に戻ってホッと一息。やっぱりプレッシャーがあったのでさかんに「疲れた」「疲れた」と言っていたらしい。僕が控え室を出た後細野さんが「僕も毎年疲れてた」とポツリ言ったそうな。「すんませ〜〜ん、いつも頼りにしてただけで、師匠〜」。でも僕と細野さんではお客さんの期待の大きさが違うから、僕の疲れなんてのはまだまだなんだろうな。二日続けて疲れたのではたまらん、ということで今回は僕にバンマスを命じたのだろう。
 疲れたとはいえしっかり弁当を食べてから銀鏡神楽を見る。雨も持ちこたえているのでテントも取り払われた。いつもの屋台バーでワインを買ってチビチビと。しかし、銀鏡神楽が伊勢でやるなんて。去年僕が司会進行をした「神楽談義」では、呼べない神楽の代表としてしっかりと銀鏡神楽を挙げたのに…。それは現地の再現は不可能という意味だったのだから、猪の頭の載った祭壇も大きなヤマも天蓋もない舞台は「やはり呼べなかった」ということになるんだけど。しかし、伊勢での奉納ということで銀鏡の人たちは単なる「営業」とは違う真剣さで神楽を演じてくれた。むしろ太鼓などは今まで現地で二回見た時よりもタイトで緊張感があった。
 一昨年の隠岐島前神楽、去年の本川神楽と比べると激しさは少ないけど、徐々に出来上がっていく「まつり空間」「気場」には独特のものがあって、是非現地に足を運んでもらいたいものだ。今回銀鏡の人たちを引率してきてくれた高見乾司さんは今年、中之又神楽と銀鏡神楽の徹夜の神楽ふたつを連続で訪ねるツアーを組むそうだ。時間と体力のある人は是非どうぞ。
 で、その銀鏡神楽が終わって挨拶が済んだとたんにガマンしていた雨が一気に落ちてきて大雨となる。いやー、こういうことは神ごとをしているとよくあるけれど、こんなにハッキリしたのはめったにない。この驚きと感動は忘れられないだろう。
 簡単な打ち上げをして宿に戻り、汗を流し、「カフェ東」へ。シングルルームにメンバー&関係者がびっちり。「カフェ東」の中にライバル店「バーばば」も開かれ、シャンペンや貴腐ワイン、カクテルがコーヒーと共に狭い部屋を行き交う。しかもグラスまで用意。お酒を飲まない細野さんも酒の味はわかるので少しテイスティング。合宿みたいな伊勢の夜は更けていくのであった。
 翌日は拝殿での奉納演奏。火入れ式に来られなかった岡野君が参加する予定なので何人で上がるか迷う。総勢で8人になるのでちょっと多すぎるかも、などと言いながら神社に行ったら岡野君が間に合いそうにないという連絡。さて、どうしようと思った矢先に「細野さんが調子悪いので欠席」の連絡。こりゃもう6人で上がるしかないので雲龍さんをリーダーとして奉納演奏することにした。
 今回は神社の奉賛講大祭とはべつの日程なので、フォーラム関係者だけで正式参拝をして奉納演奏をした。細野さんは寝たら調子が戻ったということで一安心。このあと神社の講堂でシンポジウム「アメノウズメ発見!」が開かれたが、基調講演をした鶴見俊輔さんの話がすごく良かった。後から聞いたら講演用のアンチョコをなくしての講演だったらしいが、聞いていて涙が出そうなくらい感動した。内容を詳しく伝える能力が僕にはないので、一緒に聞いたモツさんも、皆川さんも鳥居さんも、みんな感動して、おそらく生きる元気をもらったことだと思う、とだけ伝えておこう。
じゃまた来年伊勢で。(三上敏視)  

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