ニューオリンズ同行記・裏話その1
『VOODOOな夜』
あれはニューオリンズの3日目くらいの夜だっただろうか。
東京との連絡のためにホソノさんの部屋に行って、いつものようにコーヒーメーカーでコーヒーをいれようとしたときのこと。冷蔵庫に入れてあったミネラルウォーターのボトルを出し、コーヒーメーカーに水を入れたら中の水がジュワっと盛り上がり、たちまちシャーベットになってしまった。
コーヒーメーカーには、その前にホソノさんが水を少し入れていたのでコーヒーメーカーに残っていた水と冷蔵庫の水が混ざったわけだが、こんなことってあるの?と、二人でびっくり。
でも、ここニューオリンズだもんね、ということと、ホソノさんにはよくあることなので、「VOODOOだなあ」で収まりました。
コーヒーメーカーネタでは他に、セットしてスイッチを入れたもののポットを入れ忘れてコーヒーを受けるものがなく、流出したというトラブルを二人ともそれぞれの部屋でやっていたということが判明。
これもVOODOOかもしれない。
ニューオリンズ同行記・裏話その2
『ニューオリンズのミュージシャン』
細野さんが現地で作った新曲はシンプルな中にvOODOOなグルーヴを持ったかっこいい曲だが、実はベースのウォルター・ペイトンは最初の指示とは違う演奏をしているのだ。
ニューオリンズのミュージシャンはツボにはまるとものすごくいいが、はずれると全然ダメ、ということで山岸潤史さんが「安心できる器用な人」を集めてくれ、ウォルターもヤッカモ・オールスターズに入っているベテランだったのだが、この曲では彼は指定されたシンコペーションを演奏していない。
録音では1小節の1拍目、2拍目、3拍目に一音ずつ音を入れるパターンで演奏しているのだが、たしか2拍目が16分音符分前にシンコペしているパターンを細野さんは頼んでいたのだ。
リハーサルではちゃんと弾いていたが、いつの間にか3音とも「アタマ」の演奏になっていて、ま、しょうがないかということでダメ出しはしなかった。
考えてみるとこのパターンはかっこいいがかなり難しい。
少し弾く分には出来るが、フルコーラスこのパターンを弾くとすると「3音ともアタマ」か「3音目も前にシンコペ」のパターンの引力に負けてしまいそうだ。細野さんなら出来ちゃうんだけど。
ニューオリンズのリズムというとシンコペの嵐、というイメージだがひょっとしたらこのシンコペはニューオリンズの人のセンスにはないのかもしれない。
ウォルターが、知らず知らずのうちにこのパターンになったのか、この方がいいと思って弾いたのかは定かではないが、細野さんの作ったパターンは弾き慣れていないのは確かだろう。
いきなり結論になってしまうが、現地の人に出来ない現地の音楽を作ってしまうのが細野さんの不思議な魅力なんだなあということと、ニューオリンズのミュージシャンは器用ではないが、そこが魅力なんだなあということをウォルターの演奏で実感した次第でした。
ニューオリンズ同行記・裏話その3
『麻琴さんの海外旅行裏ワザ』
もう長いこと海外で百戦錬磨の仕事をしている麻琴さんなので、表裏いろいろ旅行の技を持っていた。
大体日本人は海外ではおとなしいので結構なめられてしまうということで、ホテルなどではチェックインすると「なにか一言」言うことにしているそうだ。
ロスではシングルを頼んでいたのに案内された部屋がツインだったので、「これは違う」とクレームをつけて変えてもらった。ま、当たり前のことではあるけれど、僕も部屋に入ってみたらツインだったんだけれど、とりたてて不便もないし「ま、いっか」ということで受け入れてしまった。アメリカではこの辺からなめられ始めるのかもしれない。
このことについて細野さんは「久保田君は単身海外に乗り込んで仕事を切り開いてきたから苦労しているんだよ」と言ってました。
面白かったのがギターの持ち込み。そのまま持ち込むと空港で「仕事か」とか聞かれいろいろ面倒なので、なんと愛用のテレキャスターのネックをはずしてバラし、スーツケースに入れていた。組立作業が面倒か入国プロセスが面倒かは好みの問題かもしれないが、いろいろな経験から編み出されたワザと見ましたね。
それから、今はほとんどビジネスクラスに乗る麻琴さんがエコノミーに乗っていた頃の熟睡法を伝授してくれた。
それは体全体を90度後ろに回転させる方法で、シートに当たるのは背中になる座り方(寝方)。ほとんど胎児の姿勢だが、これが良く寝られるそうだ。僕はやらなかったがニューオリンズからロスへ帰る飛行機で麻琴さんはほぼこのスタイルで熟睡していた。座席は通路側だったので窓側の席の客は通せんぼされた気分だったろうが、マイペースの麻琴さんでありました。でもこれは女性は出来ないよね。
ニューオリンズ同行記・裏話その4
『ハリー&ガース』
ガース・ハドソンについては面白い話がいっぱいあるが、感動的なシーンをひとつ。
スタジオの隅っこででガースがソプラノサックスをケースから出して音慣らし吹き始めた頃、ちょうど細野さんがこれまた隅っこに置いてあったエレクトリックピアノのウォーリッツァの前に座っていて、鍵盤をいじっていた。
電気の入っていないエレピだが、ウォーリッツァはかすかに音がする。ふたりそれぞれ音を出していたのだが急にガースがDマイナーとかコード進行を指示し始めて、ふたりのセッションが始まった。
曲は古いスタンダードのようだ。
レコーディングが始まって三日目くらいだったのですっかり仲良くなっていた二人だったからすごく自然に始まり、終わった。同行記にある写真はその直後のものだ。
仲良くといってもふたりとも静かなのでいつも隅っことかはじっことかで低音同士でなにやら語り合っている風情。すでに老師の雰囲気を漂わせていた二人だからというわけではないだろうがタオイズムのことなど話していたそうだ。
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