アボリジニからのメッセージ

 角川書店から翻訳本のでている『ミュータント・メッセージ』の著者、マルロ・モーガンが 4月に日本各地で講演会を予定しています。
 『聖なる予言』に続く全米ベストセラーというふれこみで主にニューエイジに関心のある人 たちの間で読まれていて、講演会を主催している方たちも純粋で真面目な方ばかりのようです が、この本については描かれているオーストラリアの先住民、アボリジニから抗議の運動が起 きており、著者との話し合いが解決していないということをご存じないまま主催を引き受けら れたようです。
 このトラブルは、これまで世界中で他民族(主に白人)の手によって書かれた先住民について の本の多くには事実と異なることが書かれており、先住民にとっては迷惑でしかなかったとい う、未だに続く文化的侵略や搾取の典型として存在しています。著者は大儲けしてもそれが先 住民に還元されることなく、社会的、経済的に弱者であることに変わりがありません。
 特に学術書のような精度を要求されない(なんとでも書ける)ニューエイジ本に多く見られ、 この本もアメリカンネイティブが利用され尽くしたあとに、未開拓のアボリジニの世界に目を 付けられたという側面もあります。
 現在、このことはやっと知られ始めましたが、この機会に広く一般の方にもこのことを知っ てもらいたく、抗議キャンペーンのリーダーのロバート・エギントンが製作した調査リポート、『メッセージスティック』の日本語ダイジェスト版をこのあと紹介します。
 この日本語版はオーストラリアで和訳されたものを打ち直したものです。

レポート「メッセージスティック」の概要

背景

   1990年にマルロ・モーガンというアメリカ人女性が"Mutant message Down Under" (邦題 「ミュータント・メッセージ」角川書店発行)という本を自費出版しました。本は著者がオー ストラリアの砂漠に住む<真実の人>というアボリジニーの一団と4ヶ月ほど大陸を歩いて旅を した「事実と実際の経験に」基づいて書かれたそうです。
   アメリカではニューエイジの読者に大好評を得、続いてハーパー・コリンズ社から出 版されました。アメリカでは半年余り売り上げベスト5の座を維持し、著者は「アボリジニー 文化の権威」としてアメリカやヨーロッパで講演活動に従事しています。講演では著者は<真 実の人>族との体験を語り、自らを「アボリジニー」と称しています。映画化の話しも進行中 であると言われています。
   そこで、我々ダンバタン・アボリジナル・コーポレーション(Dumbartung Aboriginal Corporation)は大陸の中央部および西部の乾燥・砂漠地帯に住むアボリジニーのコミュニティ ーを訪れて調査したところ、<真実の人>族の存在やマルロ・モーガンという女性が地域を訪れた ことを知っている人には、ひとりも遭遇しませんでした。そして、著者の「砂漠の旅」は完 全な「作り事」であり、そこに描かれている「教え」や描写も信頼性に欠けるという声が全 員から返されました。
   オーストラリアのアボリジニーは、白人の女性が自己宣伝と私欲を目的にアボリジニ ーの文化を間違って伝えている事実に大きな憤りを感じています。この種の書物は読者の意 識に"変化"をもたらすことを目的として、著者の信仰と先住民族の叡智をまぜこぜにして提 示しているものです。著者の誤った「メッセージ」がヨーロッパやアメリカで真実として受 け入れられていることを知り、それを真に受けている人々やその文化に後々まで害が及ぶの ではないかと心配しています。
   このような背景で調査を行った結果、世界中で起きている先住民族文化の搾取に反対 する統一された声があることが解り、このレポートが作成されました。

ダンバタン・アボリジナル・コーポレーションの役割

       ダンバタン・アボリジナル・コーポレーションは西オーストラリア州と海外でアボリ ジニーの演劇、踊り、文学、絵画、彫刻、工芸、音楽、その他のアボリジニーによる芸術活 動を促進するために、1987年、パースに発足しました。自らの文化活動を開拓、促進するに あたり、アボリジニー自らに充分コントロールが与えられていないという不満と懸念が直接 の動機です。アボリジニーの芸術家たちの金銭的、知的権利を守り、その人々を通してアボ リジニー文化が尊厳ある正しい姿で促進されることをゴールに掲げています。
スタッフは全員アボリジニーで、地域のアボリジニー代表から構成される委員会によって運 営される、コミュニティーに基盤を置いた組織です。

調査の方法

   ダンバタン・アボリジナル・コーポレーションは大陸の中央部、西部、中央南部を訪 れ、地元アボリジニー団体や長老を交え、乾燥砂漠地帯の要所でワークショップを開いたり、 コミュニティーの反応を集めました。訪問に先立ち、我々は自費出版された"Mutant Message Down Under"の本、新聞雑誌の切り抜き、ロサンジェルスにおける著者の講演テープ、アン ケート用紙を送り、他部族の「領地」を訪問してミーティングを開きたい旨の許可を取り付 けました。調査団はダンバタンの代表者二人に加え、女性は女性の祭時関連事を、男性は男 性の祭時関連事を別々に話し合いができるように、西オーストラリア州南西部の長老が男女 一人ずつ参加しました。また、レポートには個人や団体の許可を得ている意見のみが掲載さ れています。これらはいずれも、他人の土地を訪ねるとき、あるいは知識を授かったり授け る時の全国に共通したアボリジニーの礼儀、習慣です。

「ミュタント・メッセージ」について

1.  事実と架空の境界線
   本書が出版された時には、著者はノン・フィクションとして発行しました。ハーパー ・コリンズ社の版では「読者の皆さんへ」の欄で事実と実際の経験に基づいて書かれている と断わった上で「アボリジニの小部族を法律の介入から守るために、フィクションの形で出 版」されており、当該部族の「身元を明かしたくないとの彼等の願いを尊重し、私たちの聖 地のありかを守るために具体的な点はぼかしている」と述べています(角川書店訳本引用)。 また文頭には「アメリカン・チーフ・シアトル」、「クーリー・インディアンの予言、「マ ルロ・モーガン」などの引用に並び、「架空の」人物であるはずの登場人物「族長<王者の 黒鳥>」の引用が使われています。最後の「読者の皆さんへ」と題する著者の後記は架空の 人物の<旅する舌>によって書かれています。(それならば、本書が事実と実際の経験に基づ いて書かれているという記載もフィクションであるという解釈もできます。)このように全 書を通してどこまでが本当でどこまでが著者の創造なのか、たいへん紛らわしく書かれてい ます。しかし、この本は小説のジャンルでは扱われていませんし、一部の人々に好評であっ た理由は、これが「事実」として捕えられているからだと考えます。

2.  オーストラリアの砂漠地帯についての基本的な知識欠如

   著者が旅をしたと思われる地域にはコアラやカモノハシやクッカバラという鳥は生息 しません。よって、それらの毛皮をアボリジニーが携帯したり、「クッカバラのように声高 く羽ばたけ…」などという考え方はその地域には存在しません。また、内陸の乾燥地帯に一 歩踏み入れたことのある人ならおわかりのように、針のような葉を持ったスピフェニックス という草は、丸い大きな塊となって育成するもので、わざわざ歩くことは、しようと思って も困難です。

3.  アボリジニーの文化、習慣についての基本的知識欠如

a. アボリジニーの社会では部族間、あるいは男女間で伝統的な知識の伝播体系がはっきり 分かれています。ですから男女が一団となって旅をしても、儀式や掟や聖地などについての 知識は男女別々に分かれて教えられるものであり、よって聖地では行動もしばしば別にとら れます。また、他の部族後を訪れる時には、その地の長老に許可を求めなくてはなりません。 そのような基本的なアボリジニー社会のルールについて、著者はまったく言及していません。 <王者の黒鳥>と呼ばれる族長が登場しますが、黒鳥とは西オーストラリア州南西部の部族に 属するものです。黒鳥の掟やドリーミングとは無関係な地域にそれが登場してくることに関 し、この地域の長老は自らが他の部族の境界線を侵しているような気がすると同時に、実際 に<黒鳥>の掟を守っているアボリジニーが<王者の黒鳥>のように絶滅に瀕しているかのよう な印象を受けます。
  このように民族の掟や習慣に無知な著者の行為に心を痛めています

b.  ボディーペインティングの模様や儀式の時に付ける飾り物、獲物の料理の仕方、キャン プの設置方法、動物の糞を燃料に使うことなど、本書中のアボリジニーの行動、習慣に関す る誤記は数えきれません。また、アボリジニーは様々な写真や「町から持ち帰った品物―サ ングラス、剃刀、ベルト、ジッパー、安全ピン、ペンチ‥」などの"ゴミ"を聖地に集めるこ とはしません。

c.  登場人物の命名方法や、パイプを回す習慣、「夢の狩人」、儀式の様相、その他北米の インディアンについての民族学的記述がアボリジニに適用されている箇所が多く見られます。

4.    <真実の人>族以外のアボリジニーの蔑視

a. 主人公が町に住んでいる間は「社会人としてのアボリジニー」を目にしたことがなく、都 市部に住む若いアボリジニーは「黒い肌について触れられたくないと心から願っていた。い つか肌がもっと白い相手と結婚して子供たちが白人に混じることを望んでいた」と述べてい ます(角川書店訳本引用)。これは、間違いです。

b.  また、<真実の人>族の一人は「歴史的な遺物を保存しているアボリジニ部族はわれわ れだけだ」と述べ、地球の汚染や物質文明の毒の中で存続する意思を失った< 真実の人>族 は子孫を増やすことを拒否することによって種の絶滅を選んだと述べています。そこで、彼 らのメッセージを世界に伝えるために著者(主人公)を"選んだ" のだそうです。これは、聖 地を守り、掟や儀式を伝える一方、通信衛星を介してビデオ会議を開き、インターネットで 結ばれている熱帯や砂漠の遠隔コミュニティー   の生活、あるいは巧妙なロビー活動を 繰り広げて徐々に先住民権を勝ち得ているオーストラリアのアボリジニーの現実とはまった く異なったものです。

c.  ウルルー(エアーズロック)がもはや聖地ではないと述べられていますが、今日ウルルー ・カタジュタ国立公園はアボリジニーの部族が所有し、儀式や聖地管理に支障がないように 一部観光客の立ち入りを規制したり、伝統を維持しながら、観光客に大地の掟や文化や土地 の管理方法を教えています。

まとめ

         ダンバタン・アボリジナル・コーポレーションは統一されたアボリジニーの声とし て次のアクションを取るようアボリジニーの団体個人から委託されています(1995年3月現在)。

a.  "Mutant Message Down Under"が「嘘」であることを広く知らしめる。
b.  法的手段に訴えて、オーストラリアにおいて本を回収し、著者の講演活動に歯止めを    かける。
c.  その後の活動の成果・状況をアボリジニー団体個人にフィードバックする。
                                        以上

                      ロバート・エギントン(コーディネータ)
                           Robert Eggington

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CLONTARF, 295 MANNING ROAD, WATERFORD, WESTERN AUSTRALIA 6152
TELEPHONE: (09) 451 4977 FACSIMILE: (09) 356 1823

この後の情報は アボリジニの来日決まる(97/4/22)をご覧下さい。
   
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